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「成沢さん、おはよう」
背後から入って来た社員に挨拶され、パートの女性たちが同時にこちらを振り返る。綾芽の顔を見てバツの悪そうな表情を浮かべ、押し黙った。
透也とのことが噂になっていることは薄っすらと感じてはいたけれど、目の前で耳にしてしまうと、どことなく居心地が悪い。
仕事中は、なるべく透也とのことを思い出さないよう努力するけれど、神矢との約束が頭を擡げ、気が重くなってくる。
仕事が終わり、着替えて外へ出ると、神矢からのメッセージが送られてきた。
〈少し早いけど、もう店の中にいるんだ。待っているから、仕事終わったら来てくれる?〉
「えぇぇぇっ!!!」
スクロールして添付されている店名を確認すると、思わず声が出てしまった。
なんと待ち合わせ場所が、アリシアンKYOTOに入っている創作京料理の店『紬野』となっていた。
京都市内には沢山の美味しいお店があるはずなのに、よりによってなぜ、わざわざこのお店を選ぶのだろうか。
納得できないものの、相手は既にその店で待っているのだから、今さら騒いでも仕方がない。意を決して、ホテルにある店舗へ向かうことにした。
正面玄関から店へ入るルートはあまりにも目立ちすぎる。従業員用の入り口を通り、ホテルの裏側からエレベーターに乗って『紬野』へ向かうことにした。
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