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今朝のパート従業員たちの話では、どうやら透也がアリシアンKYOTOに滞在しているような口ぶりだった。
けれど、その割にカフェテリアへは顔も出さないし、あれから綾芽への連絡もよこしてはいない。沈黙しているからこそ、透也が何を考えているのか分からず不安になってしまうのだ。
こんなときに限って、ホテル内で神矢さんと会わなければならないなんて……もしも透也様の耳に触れでもしたら……。
紬野はホテル内の三階に店舗が並んだ中の、その一番奥に位置していた。
入り口には日本建築を模した玄関が造られ、大きな暖簾が掛けてあり、外側からは店内の様子を覗けないようになっていて、気軽には入れる店ではない。
綾芽はこのホテルで二年も務めているというのに、敷居も料金も高そうで、一度もこの店に入ったことはなかった。
中へ進むと純和風の作りになっており、床の間のようなスペースには、高級そうな壺に生けられた見事な花と、掛け軸が飾られている。
綾芽の前に日本料理の法被を着た店員が現れ、丁寧にこちらへ一礼をした。店員に神矢の名前を告げると、奥の部屋へと案内される。
襖で仕切られた個室がいくつかあり、その中にある一部屋を開けた。
「神矢様、お連れの方がいらっしゃいました」
中を覗くと、にこやかな表情でこちらに手を振る神矢の姿がそこにあった。
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