1.突然現れた人

1/7
前へ
/179ページ
次へ

1.突然現れた人

 お昼のランチは戦場のように忙しい。  ここは京都にある、アリシアンホテルKYOTOカフェテリアの厨房。  アリシアンホテルは久我咲グループが建てたラグジュアリーホテルの一つで、ジャグジープールやサウナ、フィットネス、エステなど、様々な体験ができる複合型施設だ。  成沢 綾芽(なるさわ あやめ)はアリシアンKYOTOの社員として、従業員用カフェテリアで栄養士として勤務している。  カフェテリアでは、好きなおかずを自分で選ぶビュッフェスタイル形式で、それが従業員には人気らしい。  綾芽は今年で二十四歳。大学を卒業し、働き出して二年。まだまだ見習いに近い存在だ。そのため、仕事のミスは日常茶飯事。ワイン色のカフェユニフォームとキャップ姿で、今日も忙しく働いている。 「パンナコッタの在庫、足りませんけど……」  パートの女性が困った様子で綾芽に訴えかけてくる。  デザートを出すブースで、数人がトレーを持ったまま行列ができていた。 「えぇっ? 確か、個数を確認して冷蔵庫に入れたはずなのに……」  業務用冷蔵庫を覗くが見当たらず、もしかしてと思い、隣にある冷凍庫の扉を開けてみる。  目の前の棚には、段ボールに書かれたパンナコッタの文字が見えた。 「――まずっ……。やっちゃった」
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3531人が本棚に入れています
本棚に追加