3532人が本棚に入れています
本棚に追加
朝に確認して冷蔵庫へ放り込んだつもりだったから、恐らく中身は凍りかけている。
「しゃあない。明日用のパンプキンプリンを半分出しといて」
隣でため息をつくベテラン調理師の山名チーフが、メタボ気味のお腹を突き出し指示を出す。
気まずくなって厨房を離れると、カフェテリア入り口にあるメニュースタンドを整理し始めた。
ようやくランチのピークもそろそろ終わりに近付く。ホッとして、気を抜いた瞬間、背後から声が掛かった。
「成沢君、今日のお薦め料理は何かな?」
「あっ、はい。今日はチキンのバジル風……」
急いで振り返り、口を開きかけたところで、目の前に立つ人物の顔を見て息が止まりかけた。
「ずっと探していたぞ、綾芽。……こんなところに隠れていたのか」
「……えっ!? あ、あのっ……」
綾芽は口をパクパクさせるだけで、何も言葉が出ない。声を掛けた人物は、このホテルを運営する久我咲グループの代表取締役社長、久我咲 透也だった。あのプロポーズから一度も会ってはいないから、お互い顔を合わせるのは十六年ぶりとなる。
いきなりの展開にどう対処していいのか分からず、綾芽の心は一瞬にしてパニックに陥った。
「えっと、あのっ……久我咲社長、ここだと非常に目立ちますので、別室へお持ち致しましょうか?」
最初のコメントを投稿しよう!