1.突然現れた人

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 とっさに尋ねてみるが、透也はこちらの意見に従う気などさらさらない様子だった。にこやかな表情を浮かべると、綾芽を食い入るように見つめている。  本人と面と向かって会うのは十六年振りとはいえ、透也が時々テレビや雑誌に取り上げられていたのを何度か目にしていた。  それでも実際の透也は自信に満ち溢れ、堂々としたオーラを放っており、思わず惹き付けられてしまうほどの魅力を兼ね備えている。  いきなり本人を目の前に、さっきから心臓の音が邪魔をして落ち着かない。  透也の身長は180以上あり、小さな顔に切れ長の目、シャープな鼻筋に整った顔立ち。モデルのようにスタイルの良いスーツ姿は、どこから見ても目立ってしまう。  ホテルの裏側にあるこの地味な場所で、いきなり登場したイケメン社長の存在に、カフェテリアが一瞬騒然となった。  女性たちの突き刺さるような痛い視線が、一斉にこちらへと向けられているのが分かる。 「せっかくここまで来たのだから、このカフェテリアの雰囲気を味わっていこうか」  トレーを片手に前菜やメインの並ぶカウンターへ行き、小皿に乗ったおかずを乗せていく。その周りで、社員やスタッフが透也に向かって遠慮がちに声を掛けていた。
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