約束のプロポーズ～幼馴染の年上御曹司は秘めた想いを抱く～

１．突然現れた人

　透也との出会いは記憶にないほど幼い頃、父の仕事の関係で一緒に過ごすことが多く、遊び相手として自然と仲良くなった。
　プロポーズ事件の後、透也はアメリカへ渡り、留学とホテル修行を数年済ませると日本へ帰国した。本社の勤務を経験し、現在は久我咲グループの社長を務めている。

　東京に本社があるアリシアンホテルは、主要都市にラグジュアリーホテルを持ち、日本の地方都市にもハイエンド級の支店を有する。
　久我咲グループは、主に高級志向な顧客を対象としたホテルを統合し、経営するトップ企業だ。他にも提携するホテルを複数抱えている。
　ある雑誌の記事によると、透也の父である久我咲勇造は、透也が社長に就任することに伴い会長職に退いたはずが、未だ裏で実権を握っているらしい。

　幼い頃から透也の秘書をしていた父は、年齢的に仕事の衰えを自認し、ここ一年で若い秘書と交代をし、既にホテルの企画部勤務となっている。

　綾芽がこっそりアリシアンKYOTOのカフェテリアへ就職できたのも、父の知り合いが人事部に勤務しているからこそ実現したことなのだ。
　隠れて働いていたと表現する透也の言い分も、無理はないのかもしれない。

　綾芽は秘書として働く父の背中を見て育ち、輝かしいホテル勤務も一時は憧れた。けれど父からは、透也の目の届くような仕事は避けるようにと言われていたから、表舞台の仕事は諦めるしかなかった。