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それでもアリシアンに携わりたい思いは消えず、栄養士の資格を取得すると父の許しを得て、このカフェテリアで働き出した。
透也は、ほぼ本社のある東京にいるため、ここでひっそりと働く分には問題ないだろうと就職を決めたはずだった。
それなのに……。
透也はトレーを手に、カフェテリア全体を見渡せる窓際の席へ行くと、綾芽に向かい側の席へ座るよう指示を出す。
名指しされた綾芽は、従業員、特に女性たちからの視線で針のむしろになりながら、仕方なく透也の目の前に座った。
「久しぶりだな」
綾芽を見つめる視線は真剣で、堂々としている。透也は恥じらう綾芽の顔を嬉しそうに眺めると、カップに入ったスープを口にした。
「あの……私に何か用事でも? こちらは特にお話しするようなことはございませんので、食事が済みましたら、ここから退出していただけませんか?」
「わかった。それなら今夜、改めて会う機会をもらえないか?」
「……は、はい」
「仕事が終わったらここへ来て」
透也は店の名前が書かれたメモをさりげなくトレーの下へ置いた。
トレーに置かれた食事を食べ終わると、ゆっくりとコーヒーを味わい、立ち上がる。出入り口まで見送ると、ホッとしてため息が漏れた。
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