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プロローグ
綾芽にとって一番印象深い誕生日は、八歳を迎えたその日だった。
場所は京都にオープンしたばかりの、アリシアンホテルにある屋上庭園。
新緑の季節の中、広い庭園に敷かれた芝生の上を、はしゃぎながら裸足で歩く綾芽、その後ろを七つ年上の透也が追いかけていた。
透也は綾芽の幼い頃からの遊び相手で、背が高く優しいお兄さん的な存在だ。
「透也様もはだしになってみる? ふかふかして気持ちいいよ」
「綾芽、こっちへおいで」
庭園全体は芝で覆われ、入り口から中央へ向かう真っ直ぐな道に、石畳が敷かれている。
その道は、中央に造られた蔦が絡む西洋風アーチへと向かう。道を取り囲むように、一メートル程の高さの樹木がバランス良く植えられ、木陰を作っていた。
透也が柔らかな表情で綾芽を手招きし、木陰の奥へ呼び出すと、人目を避けるように躓く。
「ほら、手を出してごらん」
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