0人が本棚に入れています
本棚に追加
村の大人たちは、「あの洞窟には近付くな。妖怪に食われるぞ」と、子供に強く伝えていた。
それでも、好奇心を持つ子供が現れた。
そして妖怪の姿を見た。
髪も肌も瞳も自分たちとは色が違い、別の生き物に見えた。口から出る音が言葉か鳴き声かも分からなかった。
ただ、恐怖はなかった。
妖怪は、静かに日の光を浴び、季節の花の匂いを味わっていた。
子供は近くに咲く花を摘み、妖怪に差し出した。すると妖怪は、それを髪飾りとして子供の頭に乗せた。
その日から続いた戯れは、ある日、終わりを迎える。
子供が目にしたのは、髪も肌も瞳も剝ぎ取られた妖怪の遺体。
それが自分たちと同じ人間だと知った。
剥ぎ取られた箇所は見世物小屋に売られ、村の大人たちが金を得ていた。
子供は、その人間を埋葬し、花の咲く木を植えた。
そして大人になる事を拒み、次々と川に身を投げた。
以降、村では子が生まれても川に呼ばれて命を落とす呪いが続き、やがて人はいなくなった。
木が枯れた今でも、川には花筏(はないかだ)が流れる日がある。
最初のコメントを投稿しよう!