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少女が手を一つ振うと真っ黒な人影が後ずさり、おびえているように見えた。
少女は少しづつ人影に近づいて、手の届く距離まで詰めると、力強く左足を踏み込んで、みぞおちあたりに強烈な掌底を食らわせた。
掌底を撃ち込んだと同時に真っ黒な人影の背後から青白い光が出てきた。そして光が消えると、真っ黒だった人型が、30代くらいのおじさんに姿を変えて仰向けに倒れた。
「なんなんだこれ……」
シュウの口から思わず声が漏れ出た。いったい何が起きたのか理解ができなかった。
少女はそんなシュウには目もくれず、おじさんのそばに跪いて様子をうかがうと、立ち上がって、橋の欄干に飛び乗って、そこからさらに跳躍して何十メートルと離れた鉄道橋に着地したのだ。
こちらを見て狐面に手をかけ、月夜に浮かぶ彼女は異様な魅力を放っていた。
少女はそのまま線路を走って、消えていった。
呆然とその場に立ち尽くしていたシュウはスマホの通知音を聞いて我に返った。
ーそうだ、早く帰って宿題をしないといけなかったんだ
とはいえ、このままおじさんをほったらかしにしておくわけにもいかない。ゆすってみると、あっさりと起きてくれた。
「大丈夫か」と声をかけると、「大丈夫だが、なんでこんな場所にいるのかわからない」と答えた。
どうやら普通に立って帰れるようなので、とぼとぼと殿町通りの方へと歩いて行くのを見送った。
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