特別な__

7/7
前へ
/8ページ
次へ
 ずっと、生誕の日なんてどうでもいいと思っていた。  自分が本当に生まれた日なんて分からない。本名も知らない。だから、自分が生まれた日なんてどうでもいいと思っていた。  それでも、道端で親子の姿を見るたびに、少し胸が痛くて……その感情にも、ずっと蓋をしてきた。  (俺……寂しかったんだな……。)  こうして、サプライズという形で祝われて分かる。人から心を込めて祝われることの、何と温かく嬉しい事か。  めちゃくちゃに目を拭っていると、ロベルトが、そういえばさ、と口を開く。  「実は、ファンシュレッタ家からの贈り物はまだなんだ。で、親父とかと色々話し合ったんだけど……」  ロベルトが差し出してきたのは、永住権を獲得出来る国民登録の書類。住所はもう記され、最後の部分に「ファンシュレッタ宅」と書いてある。  「え……?」  「まぁ、俺から、いや、ファンシュレッタ家からの贈り物は……お前が今回泊まった、あの空き部屋ってことで。名字は、お前が変えたければ変えればいい。どうだ?」  ヴィトリン国の国民に、そして、ファンシュレッタ家の一員となる。これ以上の贈り物があるだろうか。  「はは、返事は分かり切ってるだろ。」  そう言うと、国民登録の書類を受け取り、ペンを手に取った。  「ステファン、忘れるな。生誕の日は、特別な日であり、特別な灯を扱う日なんだ。」  深く頷き、一気に署名欄に名前を書いた。  *  次の日、国の役場に1枚の書類が提出された。  署名欄に「ステファン・ファンシュレッタ」と書かれた、石鹸の香りを纏った書類が__  (完)
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加