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ずっと、生誕の日なんてどうでもいいと思っていた。
自分が本当に生まれた日なんて分からない。本名も知らない。だから、自分が生まれた日なんてどうでもいいと思っていた。
それでも、道端で親子の姿を見るたびに、少し胸が痛くて……その感情にも、ずっと蓋をしてきた。
(俺……寂しかったんだな……。)
こうして、サプライズという形で祝われて分かる。人から心を込めて祝われることの、何と温かく嬉しい事か。
めちゃくちゃに目を拭っていると、ロベルトが、そういえばさ、と口を開く。
「実は、ファンシュレッタ家からの贈り物はまだなんだ。で、親父とかと色々話し合ったんだけど……」
ロベルトが差し出してきたのは、永住権を獲得出来る国民登録の書類。住所はもう記され、最後の部分に「ファンシュレッタ宅」と書いてある。
「え……?」
「まぁ、俺から、いや、ファンシュレッタ家からの贈り物は……お前が今回泊まった、あの空き部屋ってことで。名字は、お前が変えたければ変えればいい。どうだ?」
ヴィトリン国の国民に、そして、ファンシュレッタ家の一員となる。これ以上の贈り物があるだろうか。
「はは、返事は分かり切ってるだろ。」
そう言うと、国民登録の書類を受け取り、ペンを手に取った。
「ステファン、忘れるな。生誕の日は、特別な日であり、特別な灯を扱う日なんだ。」
深く頷き、一気に署名欄に名前を書いた。
*
次の日、国の役場に1枚の書類が提出された。
署名欄に「ステファン・ファンシュレッタ」と書かれた、石鹸の香りを纏った書類が__
(完)
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