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その夜もあたしは海の上に顔を出して、星空を見つめながら“あの人”を乗せ
た船が来ないか待っていた。
初めて見たのは丁度今日と同じくらい海が温かくなってきた頃だった。船を
見たのは初めてではないけれど、それはどれもそれは海の底からだった。
人魚は人に見られてはいけない。あたしたちの常識だ。特に太陽の出ている
うちは見つかってしまう危険が高いから海面近くや陸に近づいてはいけない。
それは夜になっても同じ。闇の中では人は遠くまで見渡せないというし、船を
出す漁師もほとんどいないというのに成人として認められる15歳までは水の
中から出てはいけないと掟で決まっている。
けれど私は頭上に見える光をもっと近くで見てみたいと、いつも思ってい
た。あたしは14だった、でももう少しも我慢できなくてみんなが寝静まった
真夜中に、一人で上へと泳いでいった。海の上は話で聞くよりも、想像するよ
りもずっと美しくて月がこんなにも明るいと、この夜に知った。
陸に咲く甘い花の香りを風が海へと誘う、穏やかな日。水しぶきが月の光に
きらめくのが素敵でずっと泳いでいたくて、気が付けば私たちが生活する人魚
の海域の端まで来てしまっていた。掟を破った背徳感からか気分が高ぶってい
たのだ。
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