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人々の悲鳴も止み、火も消えて、船も沈んでしまった後も、すぐに海の底に
戻る気分になれなくてあたしは泳ぎ続けた。海に落ちてもがいている人の中か
らあの人を探しだして助けることもできたのに逃げてしまった。涙が止まらな
い。あんなに会いたかったのに。あたしは……あたしは……。
あてどなく海を漂っていると、前方に小さな波しぶきをあげるものを捉え
た。まさか人間?いや違う。黄金の長い髪が水面に揺らめくのが見えた。
あのうしろ姿は人魚姫。人魚の王の6人いる娘の末だ。そういえば彼女もつ
いこの間に15になったはず。その彼女の脇に何かを抱えているのに遅れて気
づいた。人だ。かろうじて水面に出ている人の顔を見て息が止まった。それは
あたしがずっと一目会いたくて仕方がなかった名前も知らないあの人だった。
「どうして……」どうしてあいつが人を助けているの?人間に姿をばらすよう
なこと、王に見つかれば泡にされてしまうかもしれないのに。どうしてそんな
行動ができるの。
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