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朝日が昇ってしまう前に人魚の海域へと戻らなくてはならない。途中、黒く
濁った海水が流れ出る洞窟があった。サンゴ礁もなく周囲には不気味な海藻が
生い茂っている。魔女の住処。場所は知っていた。北の海、潮の流れに逆らっ
て泳ぎ続けるとサンゴは消えてウミヘビと海藻が多くて水温が冷たくなったら
魔女の領域。
「今日はやけに若い客が多いねえ」
背後から不意に聞こえた声にぎょっとして振り返ると、蛇のような長い髪を
した老婆がいた。
「貴女が魔女?あたし以外にも人魚が来たの?」
「ついさっき帰っちまったけどね。綺麗な金髪の子だったよ」
人魚姫のことだ。男の元を去ったあと彼女もここへ来たのだ。人魚姫がこん
なところへ訪れる理由はすぐに見当がついたが、あえて尋ねる。
「その人魚は何でここに来たの」
魔女は口元だけでは笑みの形を作って、目だけは獲物を前にしたサメのよう
だ。あたしにも何か取引を持ち掛けるつもりなのか。
「あの娘は人間になりたいと言ってきたんだよ。それでお前は何が望みなんだい。」
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