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海の中に飛び込んですぐに後悔した。人魚姫に間違われたからと言って諦め忘
れられるような事じゃないと。人魚姫が人間になってあの人を手に入れようと
いうのなら、あたしは海の底であの人を振り向かせる。先に愛したのは私の
方。同じ人魚に奪われるなんて絶対にイヤ。
「あたしは人間を人魚に変えたいの」覚悟を決めて魔女に宣言する。
「ほう、それは面白いね」
「できるの?」
「もちろん。で、何をくれる?魔女との取引に代償はつきものさ。さっきの娘
はかわいらしい歌声をくれたよ」
魔女は人魚姫と同じ声で歌ってみせた。恐ろしい。私は取り返しのつかないこ
とをしようとしている。でも彼を失ってしまったと思ったとき、あたしは彼が
いない世界で生きていくことは耐えられないと感じた。だから何でもして見せ
る。海の中であの人を手に入れる。
「寿命はどう。人魚の寿命は300年あるわ」
魔女にあげられるものなんて他には何もない。彼と話すための声も、彼を見る
ための目も渡すわけにはいかない。お金も宝物も持っていない。
「それはいい。思い切ったね。この薬を飲ませた相手と同じだけの寿命をやろう。それ以降の命はわたしのものだよ」
愛する人と同じだけ生きてあたしも死ねるのならむしろありがたい。喜んで私
は命の時間を差し出そう。
魔女からエメラルド色の液体の入った小瓶を受け取ると、浜辺へと急いだ。
まだ彼が砂浜にいてくれていることを祈りながら。
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