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雨の様なピンクが舞っていた。
暖かい陽射しと桜並木の幻想的な景色が広がる季節。
その学園も、終わりの儀式を行なっていた。
高校生と武器の卒業式
「あ"〜〜〜〜だりぃ〜〜〜〜」
赤毛の青年は中庭の草原でごろりと寝転びそう零す。
その頭に血の色をしたワニの霊がのし掛かり、青年はぐえと呻いた。
「わかる〜。な〜んか春ってだるいわよね〜」
隣に座っていた紫のポニーテールも欠伸をする。
「そう?わたしは過ごし易いよ」
ポニーテールの肩に乗っていた紫の鳥霊はそう唄う様に言う。
「なんか気合いが入らないっていうかあ、やる気出ないのよねえ〜」
紫の女は溜息を吐いた。
いや、その紫はオンナでは有るが体は男である。
長く艶やかなポニーテールや、スカートとピンヒールを着こなす姿で皆騙されるが、肌蹴た胸板は男だった。
「おい、バラ、ユリ。こんな所に居たのか」
声に赤や紫は見上げる。眼鏡と左耳の長いピアスが特徴的な、モノクロを基調とした青年に、あーと気の抜けた返事をする。
「ほら、卒業証書」
真面目そうなメガネ男子が黒い筒をバラとユリに差し出す。
「サンキュー、アシ!」
「さっすがアシ!」
二人それを受け取る。
しっかりと式に出ていたアシは二人と二匹の様子に呆れの溜息を吐いた。
「全く、卒業式くらい出ろよ。最後になるんだから」
「イヤよ、また教師にどやどや言われて服も直されたりするの」
「そうそう、かったりぃだけだろ。アシは真面目だなー」
「本当に真面目ならお前らとなんて連まねえがな」
眼鏡にきっちりと着こなした制服という見た目に反し、アシもその実問題児だった。
ただアシの場合授業にはしっかり出るし、武器士クラスでトップの成績だったので教師も咎めるに咎められないのである。
「アシ優等生は証書渡しに選ばれちまうしなー」
「ああ。かったるい事この上なかった」
バラに揶揄われても気にはしないが、何かに選ばれるのは面倒だと思うタイプだった。
「でも、これで俺達も卒業だ」
空を見上げアシは言う。そのセリフは、なんとなく6人の心に残った。
「なあなあ、打ち上げ行こうぜ!」
アシの左腰に刺さっていた大太刀が言う。その刀は黒いもやとなり、人の形になった。
「いいねえ!打ち上げ!」
バラも、その大太刀である黒一字の言葉に賛同する。
「肉!!」
「肉肉!!」
と霊であった赤鰐と紫鳥も人の形をとり喚く。
「じゃあ焼肉行きましょう!!」
ユリがるんと立ち上がった。ちゃらり、と耳のピアスが鳴る。
「お前ら式にも出ねえで打ち上げも何もねえだろ」
アシがそうツッコむが、他の5人はもう口が焼肉の様だ。
はあ、と溜息を吐き、学園の校門へと向かう一同にはついていった。
校門をくぐれば外界になる。
その桜の花吹雪でピンク色に染まる視界は、6人の門出を祝っている様にも思えた。
「こうやって連むのも今日で最後なんかなあ」
街の焼肉屋へ向かう足でバラは言う。
「そんな事無いでしょ?連絡先だって分かるし、またどうせ直ぐ集まるわよ」
「仕事が忙しくならなきゃな」
もう、学生ではない。
アシはもう引き抜かれているし、ユリも実家のBARを手伝うつもりだった。
バラだけはこれから仕事を探さなければいけないのだが、実家でぐだぐだ生活する未来が見える。
そして、武器としてパートナーを組んでいた黒一字、赤歯、紫福もそれについていくのだった。
ばらばらの人生が待っているのだ。
「まあ別に悲観はしてねえけど」
アシは舞う花弁をみながら言った。
「そうよ。アタシ達の友情は永遠よ!」
「ユリはくっせえ事言うなあ」
失礼ね!と膨れるユリをバラは笑う。
こんな三人だから、馬が合うのだ。
「何食べる?」
「まずはタン」
「次カルビね」
三人の後ろを歩いていた武器達はもう頭が焼肉でいっぱいだ。
なんだか、こういうのが幸せってやつなのかな、とアシは何気無く思ったりした。
ピンクの道を歩いていく。
この後の人生も、この道の様に明るいと、6人は思っていた。
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