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文博くんは全ての性別からモテモテな、顔も身体もイケメンなコミュ強人気者アルファ。
恋人になれずともワンナイトでいいから、と関係を持ちたい人間は多い。
同じ学科の女子が、遠くに彼を見ながらそんなようなことを言っているのを、リアルに聞いたこともある。
よって労力をかけて犯罪者になってまで、残念スペックな僕なんかをわざわざレイプする理由がない。
そう思うのに、再度同じことを同じ言葉で問う僕の声は恐怖からか、わずかに裏返っていた。
「すぐに分かる」
彼は同じ問いに対して先程とは違う返答をすると、インカメラをオンにしたスマホを僕へ向け、無表情だった顔に満面の笑みを浮かべて言った。
「ウェーイwww オタクくん見てるー?」
その声はテンション高く陽気だったが、僕の身体はぶわりと脂汗をかき、びくんと大きく跳ねた。
最近どこかで、何かで見た台詞だと思うが、上手く記憶の引き出しが開かなくて、この言葉が意味するところを引っ張ってこられない。
いったい何だったっけ?!
「『オタクくん見てる?』て……文博くん、僕以外にオタクの知りあいいたんだ?」
「いるよ。まぁこの動画送りつける奴とは、少し話したことがあるだけだけど。
――オタクから恋人寝取る時は、こう言ってやるんだろ?」
彼の笑顔が明るく乾いたものから、邪悪を隠さないじっとりとした湿度の高いものへと変わる。
「あ……」
気が抜けたような声と共に、僕はやっと思い出した。
『ウェーイwww オタクくん見てるー?』は、少し前にネットで流行った概念チャラ男構文だ。
大喜利なら続くのは『オタクくん』に優しい展開になるが、そうじゃなければ厳しい展開になるやつだ。
察するに僕は、概念チャラ男役の文博くんに快楽落ちするまで犯され、『オタクくん』から概念チャラ男に乗りかえる恋人の役を割り振られている。
「今からこのオメガのうなじ噛んで、性奴隷にしちゃいたいと思いまーす! イェーイ!」
目を白黒させる僕をいちべつもせず、彼は自らもスマホのカメラに映りこみながら、とんでもないことを言う。
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