どうしてこうなった?

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『性奴隷』なんて単語を現実に、しかも僕宛の言葉で聞かされる日がくるとは思わなかった。 あり得なさすぎる現状に僕の身体は硬直し、まばたきしかできない――なんて思考停止している場合ではない。 先程作られた五センチの隙間から入ってきて、軽い圧迫と共に服の下の肌をまさぐる彼の大きく冷たい手のひらが、ジョークではないと伝えてきたから。 ヤバイヤバイヤバイ! うなじを噛まれたら番になってしまう! 貞操の危機どころの話じゃない! 「せ、性奴隷て! エロ漫画読みすぎて頭おかしくなった?! らしくないこと言って、いったいどうしたの? 恋人とケンカでもした? 愚痴なら聞くよ。あぁそうだ、これから飲みにでも行く? というかさ、寝取るって誰から寝取るつもり? 君と違って僕には恋人なんていないから、寝取りようがないよ?」 『寝取る』とは、他人の恋人を性行為によりメロメロにして横取りすることだから、まず寝取る相手に恋人がいなければ成り立たない行為だ。 けれども僕はスクールカースト最底辺の、陰キャキモオタのオメガ男性。 前世でどんな大罪を犯したのか? と考えたくなる程、非モテ要素役満な人間だ。 だから僕の人生において、『恋人』だなんていう光輝く存在は、これまで一度だっていたことはない。 文博くんだってそんなことは分かっているだろうに、彼は僕の服の下から手を引き抜くと、フンと鼻で笑った。 「健嗣くーん、嘘つきは泥棒のはじまりでちゅよ〜?」 まったく知らない人のようになってしまった幼馴染みは、動画を撮っていたスマホを僕の胸横へ置くと、座る位置を僕の腰の上から(もも)へと移動した。 次は何をするつもりなのかとハラハラしながら見ていると、彼は僕のベルトを手早く外し、勢いよく引き抜いてしまった。 おちょくるような言葉とは真逆の、余裕なさげな荒々しい手つきでだったが、それが何故であるかを訊く余裕は僕になかった。 「嘘じゃないし! 僕に恋人がいるっていうならそれは誰だよ?! ここに連れてきて、僕に誰が恋人なのかを教えてくれよ!」 僕の質問に答えない彼は、「そうそう、こんなものも用意してみましたー」と言いながら、僕の上に座ったまま上半身だけひねって後ろを向き、何かへ手を伸ばした。 「じゃーん! コレ何だと思う?」
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