Graduation ceremony

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 バスタブの排水口の周りに黒い毛が何本も絡まっている。ジュシア・トンプソンは顔をしかめた。我が家に黒髪の人間はいない。自分も含めて夫のデビッドも娘のアシュリーもみんな金髪だ。ジュシアは掃除用ブラシで髪を取り、除菌ペーパーでくるんでゴミ箱に捨てた。時計を見る。十二時だ。ランチはピザトーストでも焼こう。でも実際食べられるか分からない。あんな長い黒髪を見た後なのだから。けれど無理やりにでもピザトーストを胃に入れて体力をつけておいた方がいいだろう。ジュシアは冷蔵庫を開けた。またデビッドのBMWで大型スーパーに買い出しに行く必要があるな。アシュリーの高校の卒業式も来週だし。  マサチューセッツ州に住むアシュリー・トンプソンは高校のカフェテリアでサンドイッチを食べていた。カフェテリアは片側がガラス窓で明るい。白いテーブルと白い背の椅子は明るさを増している。アシュリーは前の席でホットドックに噛り付いているウィリアム・ブラウンを見た。ウィリアムは彼氏だ。金髪の髪に青い瞳はアシュリーと同じだ。 「卒業式のホームパーティーのことだけど、ウィリアムは来られる?」 「ああ、家にトレーラーでも突っ込んで来ない限り行けるよ。お土産はなにがいい? 俺のお母さんがアップルパイを焼くって言っているけど」 「ああ、ウィリアムのお母さんのアップルパイは最高よ」 「じゃあ決まりだ。卒業式が終わり次第、俺のホンダで行くよ」  ウィリアムはウィンクした。アシュリーは微笑む。長かった義務教育も終わりだ。大学はもう決まっている。
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