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入学式
「渋谷学園女子高等学校にご入学の皆さん! 本日はおめでとうございます! 只今校舎を建て替え中で、仮校舎からのスタートになりますが、それもまた良き思い出となることでしょう。今日この日から、良き師そして良き友と学園生活を……」
桜が舞い散る中、新しい制服を着てウキウキソワソワしながら入学式の会場に着席している生徒たち。
来年から新校舎になるということで、本来の校舎は現在工事中。この入学式も、近隣の大きなホールを借りて行われている。一年間は別の建物を借りて授業を受けることになる。
早くも校長の長い話に飽きてきた生徒たち。壇上には中央で話をしている校長の後ろに、理事長、副校長、そして一年生の担当となる職員が座っている。
職員の中に、一際目をキラキラさせて生徒を見つめている先生がいた。きっとこの学校の名物先生なんだろうと誰もが思うぐらい、声は発していないのに存在感は充分にあった。
「さて、それでは各クラスの担任の先生を紹介いたします。A組、西原祐志先生。英語の担当です」
さっきから目を輝かせていたのはこの人だった。このクラスはきっと楽しいだろうなと、A組の生徒は内心喜んだ。
「B組、前田悟先生。社会の担当です」
眼鏡をかけているからか、真面目そうな印象の先生だ。穏やかな笑顔を向けてお辞儀をした姿はとても爽やかだった。
C組は国語担当、D組は社会担当の女性の先生だった。D組の先生だけ、生徒の親ぐらいの年齢だったが、それ以外の先生はアラサー世代だと思う。
「E組、長澤浩介先生。数学の担当です」
この先生も西原先生とは別の意味で目についた先生だった。座っている間ずっと貧乏ゆすりをしていて落ち着きがなかった。立ち上がった時によく見ると、スラっとしたスタイルに細身のスーツを着ていた。ガムを噛んでいたんだろうか、ずっと口が動いていた。そして目が座っていた。お辞儀というか、首だけ前に出すように「ちーっす」という感じで挨拶した。
「先生っぽくないし、ガラ悪!」ほとんどの生徒がそう思ったに違いない。イメージ通りの先生だったら嫌だなとE組の生徒は思った。
「……これにて入学式を終わりにしたいと思います。これからクラスごとで集合写真を撮ります。その後、そのまま移動して担任の先生から挨拶と連絡があります。クラスごとで解散となりますので宜しくお願いします」
どのクラスも事務的な感じで明日からの予定を渡されて解散となった。
A組だけクラス便りみたいなプリントも配られた。西原先生は声も大きかったし、存在感が溢れていた。
「改めまして西原祐志です。西原先生って呼ばれるほど偉くないので、俺のことは『にしやん』って呼んでください。今までの生徒たちもそうでした。この学校を選んで入ってきてくれた君たちが、学園生活を楽しく過ごせるようにお手伝いします。一緒に頑張っていきましょう!」
西原先生はそんな挨拶で締めくくった。
配られた学級便りはまるで漫画を読んでいるみたいに沢山のイラストと文字がビッシリと紙面を埋め尽くしていた。全部手書きだった。
文字からもイラストからも、この先生が熱い男だということがわかった。
A組の生徒たちは、入学式の壇上で目を輝かせていた先生と全く同じ目をして、明日からの学園生活に期待した。
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