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初めての、拓のお部屋で
翌日。
お昼前に拓が迎えに来てくれて、すぐそばのパン屋さんで買い物して、初めての、拓のお部屋訪問。
「…お邪魔しまーす」
ドアを開けたら、うちとは全然違う匂い。
あたしの住んでた部屋とも全く違う。
…それだけで、ドキドキしてきちゃった。
「お茶用意するから座ってて」
「ありがと、あ、パン出しとく?」
「ん、頼むわ」
ひとりで住むにはゆったりした間取り。
仙台にいたあたしの部屋の、倍くらいありそう。
「ねーぇ、弁護士ってやっぱりお給料いいの?」
「は?なん、急に」
「お部屋広いんだもん、びっくり」
「急に決めたから物件あんまなくてさ、あや、あっち行こ」
紅茶が乗ったトレーを持つ拓の後ろを、パンを入れたお皿を持って、ついてく。
対面キッチンと、リビング。
ひとり暮らしにしては、大きなテレビ。
座り心地がよさそうなソファ。
その前にあるローテーブルにトレーとお皿を置く。
ほかにはお部屋が、ふたつあるのかな?
「そっちは仕事部屋で、こっちが寝るとこ」
きょろきょろしたつもりはなかったんだけど、拓が教えてくれた。
「このテレビは、兄貴から、あ、ソファも。同居するのに要らねーからって、くれたの。寮にはなんでも揃ってたからさ、ひとり暮らしすんのに買わなくてよくて、助かったよ」
「やっと帰ってきたのに、おうちにはあまり、住めなかったの?」
「半年くらいはいたかな、て言っても、帰り遅くて寝に帰るだけだったし、休みも寝るか勉強ばっか、で、部屋探しだろ、バッタバタしてたよ」
「大変だったんだね」
「そ、まじもー、すげぇ大変だった、環境変えるのってな」
そっか、拓は自分で選んで環境を変えたんだもんね。
ひとり暮らしは不可抗力だったとしても、異動を言い渡されて引っ越したあたしとは違う。
本社勤務は希望通りだし、実家に戻れてうれしいけど。
「ウチの事務所、家賃補助あるから住めてるようなもんだよ、あや」
「あっ、そうか、お手当ね、ありがたいよね」
「俺まだ2年目だからそんなにもらえてないけど、給与明細、見る?」
「えぇぇ?なんで??」
「この年齢から付き合うなら、見してもらった方がいいよ。トラブル回避、覚えときな」
拓はあたしの頭をぽん、ってして、お茶のお代わりにキッチンへ。
拓ってば…さりげなく伝えてくるし。
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