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5年後
「拓、ちょっと待って」
「忘れ物あった?」
「んー、だいじょぶ、ありがと」
拓に渋谷で再会してから5年。
その後、2年くらい付き合って、そろそろ結婚3年目。
あたしと拓の間には、めちゃくちゃかわいい大切な命が、ひとつ産まれた♡
「まま?」
「待っててな、すぐ来るから」
拓が、んしょ、って抱きなおしてる。
今日は3人でお出かけの日。
目的地は、あたしが5年ぶりに渋谷に降り立った日に、いつか行こうと思っていた、宮下パーク。
拓とは数回行ったけど、子連れで行くのは初めて。
1歳の子を連れて出かけるには、行き先が限られちゃう。
電車でバギーOKと言われても、都内の電車はたいてい混んでるし、グズられたらと思うと、自信ない、億劫になる。
育休中のあたしは、娘と公園に行ったり、買い物に出たり、実家に寄ったりしてる。
それくらいがちょうどいいけど、たまには賑やかな場所に行きたくなる、って拓に話したら、拓がいる日に、ササッと出かけて楽しもう、ってことになった。
あたしも拓も、親としてはまだ新人だから、何をするにもドキドキ。
実家のそばに住んでてよかったー、って思う。
「あや、もう出られる?」
「うん、行こ」
空いてそうな時間をねらって来た宮下パークには、子連れの人もちらほら。
空いてるベンチに腰かけて、3人でまったり。
「子連れだと、なーんか景色違って見えるな」
「うん、わかる」
芝生で娘とボール転がして遊んでるのが、あたしなんだけど、あたしじゃないような。
娘を産む前にはわからなかった、いろいろな感情に気付いてるところ。
拓もたぶん、そうだと思う。
遊んでるうちに、ぐずってきて、拓が抱っこしてあやしてたら、娘が寝ちゃった。
「あや、カフェ行ってみる?」
「ここからだと距離あるよ、起きないかな」
「そしたらテイクアウトすればいいよ、アップルパイ、食べたいだろ?」
「うん。行ってみよっか」
拓とあたしと、バギーでよく眠ってる娘とで、松濤のカフェに向かってるのが不思議に思える。
カフェについても娘はまだ眠っていて、あたしたちは店内へ。
いつもの、ステンドグラスが綺麗な席に座って、紅茶とアップルパイを注文した。
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