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まさか、彼に会えるなんて
「やっぱり、あやだよね?」
笑顔で私の方へ向かってくるのは、紛れもない、大好きだった彼。
「…びっくり、した」
思わず声に出ちゃった。
「俺もだよ、奇遇だね、仕事?」
「そう、出張で」
「そっか、あや仙台だもんな」
「よく覚えてるわね」
「当たり前だろ、遊び行ったし」
気づいたら真向かいに座ってる。一緒の人たちは、いいのかな。
「…転職、したの?」
確か、商社に入ったはず。でも雰囲気違う。それに、関西だったよね。
「わかる?やっぱ頑張ろうと思ってさ、戻ってきて、いま弁護士事務所にいんの、修行中」
「え?…あぁ、夢だったもんね」
5年間という時間の重さも、自然消滅しちゃったことも、簡単に飛び越えたような感覚。
会いたくて寂しくて、あんなに泣いたのに。
「職場の方?」
離れたテーブルに座ってる、さっき一緒にお店に来た人たちが気になる。ほっといていいの?
「1件落ち着いたから、軽くね、ここ、たまに来るの、コーヒー美味いから」
大好きだった笑顔、変わってない。
スーツ似合うし、締まった感じがする。
「あたしは、5年ぶり。渋谷自体、5年ぶりなの」
「…卒業以来、ってことか」
「…うん…そう」
彼が何を思って考えてるのかわからない。
「俺もここでお茶、いい?」
「向こうの人たちは?」
「いいよ、毎日会ってるし」
思いがけず、彼と同じテーブルで、コーヒー飲んでる私。
ここで会えたら渋谷の魔法だな、なんてことあるわけない、って思ってたのに。
会えた上に、5年間のブランクなんてなかったかのようにお喋りしてるのって、現実?
もしかして、夢見てるのかな。
「あや?」
私を呼ぶ声、変わってない。いつも優しいの。
「え?」
「どうしてた?ずっと、気になってたよ」
そんなに見つめられたら勘違いしそうになる。
会えただけで十分、それ以上は欲張らない。
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