責任者を呼んでください!

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「責任者を呼んでください!」  俺がこう言うのにはわけがある。つい最近、近くのスーパーマーケットでトンデモ社の鯖缶を買って食べたら、腐ったような、いや、あれはもう、腐った味がしたのだ。勿論、賞味期限は確認した。たっぷり時間はあった。だから、非常食にと思い、10個程購入してしまったのだからたまらない。これは酷いと思ってネットで検索したら、何人か、俺と同じような意見をコメントしている人が見受けられた。そして次にトンデモ社を検索してみた。すると、驚くべきことが発覚した。それは、 家の近くの、ずっと前から何だか分からなかった建物が。  トンデモ社ビルだったのだ。  と、考えていると足音が聞こえ、一人の男が入ってきた。どうやら彼が責任者らしい。 「どういったごようけんで?」彼は俺にそういった。 「それは分かっていらっしゃるでしょう?貴社の鯖が腐ったような味が、いや腐っていたんです」俺がそう答えると、彼はおどけた調子で分かりません、いや、まったくもって分かりませんネェと呟くので怒ろうとしたが、彼は語を続けた。  「うちでは寄せ鍋は取り扱ってません」俺は驚いた。なんというつまらない冗談なんだろう。酷い、これは、流石に。  と、唐突に彼は口を開いた。「すいませんでした。鯖の代わりとはなんですか、前に取り寄せた私のお気に入りの鰊の缶詰を差し上げます。諌めてください」最後の台詞(諌めてください)はよくわからんが、分かってくれたようだ。  すると彼は自身のバッグのまさぐり始めたと思うと、中から缶詰を取り出した。そして俺にそれを渡した。「食べてみてください。スプーンはこれです」というと、スプーンも差し出した。「ありがとうございます。では」俺はそう言って缶詰の蓋をー ー開けた。か。異臭が鼻に届いた。思わず鼻を押さえる。悶絶。  少し収まったので鼻から指を慎重に離した。そして怒ろうとしたが、またしても遮られた。「これは、刺激臭嗜好の方にピッタリ、なんですよ」 いや、別に俺はそういうものをもとめていない、のだ。  「すいませんでした。では、当社の腐っていなくて、なおかつ刺激臭もしない鯖の缶詰を無料で差し上げます」  今度こそ分かってくれたようだ。鰊は好きじゃないのかな、という彼から鯖缶を受け取り帰ろうとしたその時。俺は気づいてしまった。  くるり、と体を反転させると、驚いている責任者に言った。 「結局、鯖缶の中の鯖は何で腐っていたんでしょうか?」 責任者は答えた。  「サバでも読んだんでしょう」
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