自分と母

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 八年前。  生まれた時からこのころまで俺は体が弱かった。  病弱で、走って遊び回ることもまともにできない。そんな体だった。  そんな俺の事を気にしてくれたからなのか、家族は俺に川に花火をしに行こうと言ってくれたのだ。  忘れない。あの日は小学四年生の夏休みで、友達の家族を交えて、キセキ川に花火をしに来ていた。  キセキ川。それは俺が前に住んでいたところの近くにあったとても大きな川だった。  古い言い伝えによると、この川の上流にはどこかの星に住んでいた神様が住んでいて、なんでもその神様はもといた星に帰りたいが、帰れない事情があったそうだ。  迷信。俺は最初その話を聞いたときは「ふ~ん」と聞き流していた。  上流の方から吹いてくる、いやにジメジメした風に、夕方の肌を焼くような強い西日が重なって、気分が悪かった時に友達のヨウタがそんなことを不意に言ってきたのでもうそんなことしか覚えていないが…。  それから俺は父さんとヨウタと三人で花火の準備をするために川に水を汲みに行こうとしてたっけか。  だが共に来ていたヨウタは一人でどこかに遊びに行ってしまい、火消し用の水汲みを押し付けられて、文句を言う俺の姿を見て、父さんがずっと苦笑していたっけ。  けど…これは俺の大切な思い出。  父さんとの数少ない、大切な思い出だ。 「まだ怒っているのか?」  父のヒサシがバケツを川につけて、水を汲みながら不意にそんなことを言った。  父から水を汲んだバケツを受け取ると、「当たり前だよ! ヨウタ君一人だけ遊びに行くなんて! 俺も森に探検に行きたかったのに! なんで俺だけ我慢しないといけないんだよ!」と一気に捲し立てた。 「許してやれよ…。お前だって我慢できないことだってあるだろう? あと探検はダメだからな! 無理して体に負担がかかったらどうするんだ?」 「俺はヨウタ君と違って、大人だからなんでも我慢できるもん! 体だって大丈夫だし! 父さんは心配しすぎだよ」  子供だった。今思い返すと、背中が痒くなってくる。当時の俺は自分が同級生の誰よりも大人だと思い込んでいた。価値観、態度、考え。自分は周囲の人間から精神的にも肉体的にも自立していると。  よく考えると、当時の自分があまりにも子供だったことを痛感せずにはいられない。  けど、そんな俺をいつも暖かく見守ってくれていたのが父さんだった。 「じゃあ、我慢しているケンスケにだけにいいことを教えてやろう」 「いいこと?」  父さんはいつもこうして、文句ばかりたれていた我儘な俺に面白いことをたくさん教えてくれた。  子供の扱いがうまいというか、自分もまだ子供の殻から抜け出せていないというか、とにかく俺達子供の機嫌を取ることに長けていた。  無邪気な少年のように笑顔を浮かべる父の顔に視線を向けると、空に向かって指を指した。 「ケンスケ知ってるか?」 「何?」 「ここの川で星型の石を見つけて、星に向かって願いごとをすると願いごとが叶うんだってよ」 「本当に?」 「ああ。だから後で、星型の石を探して、星に向かって願い事をしてみろよ。願いが叶うかもしれないぞ」  父さんはそういって、少年のように笑った。  俺はその話を聞いて少し興味がわいた。 「じゃあ、走れるぐらいに元気になりたいって、願い事をすれば、願いは叶うのかな?」 「ああ。きっと叶うよ。…きっと」  そして願いは叶った。  嘘かもしれないが、本当にこの翌年から体が良くなっていったのだ。  あの後、俺と父さんはで星形の石を探し出して、星に願いをしたのだ。  元気になれますようにと。    けど、そのあと思いもよらない事が起こった。    母さんが川に溺れたヨウタを助けに行って母さん達が溺れそうになったのだ。  父さんは母さん達を助けるために川に飛び込み、母さん達を助けたが、川に流されてしまい、その日帰らぬ人となった。
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