自分と母

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 さっきまで止んでいた雨は次第にまた降り始めた。  駅前のファーストフード店の窓から外を見ると、雨の礫は矢のように外を歩く傘をさした人たちを射抜いているようだった。  スマホを見ると、時刻はすでに夕方の五時。  明日も大事な試験を控えている立場なら、もう家に帰って明日に備えるべきなのだが、とてもあの家に帰る気にはなれなった。  母さんの顔を見たくない。  一時間でも多く時間を潰して、あの家にいる時間を減らしたかった。  母さんの顔を見ると、必ず俺は母さんをいつも罵倒してしまう。昨日もそうだった。         ***** 「ケンスケおはよう。朝ごはんの用意できてるわよ」  寝ぼけまなこを擦りながらリビングに入ると、母さんは笑顔を向けて言った。  当然無視した。「話しかけるな」と罵ってやりたかったのもあるが言葉を交わすだけで自分が腐っていくように感じたからだ。  カバンを持ってそのまま玄関に行くと、母さんは俺のあとを追ってきた。 「ケンスケ…。少しくらい食べていかないと倒れるわよ?」  当然無視。  俺は靴を履いて、外に出ようとすると母さんは俺の腕をつかんだ。 「ケンスケ…。お母さんが憎いのはよく分かってるわ。けどお前がこの家にいる間は母親らしいことさせて…お願い…」  俺は母さんの腕を振りほどき、「気安く触んな! あんたにそんなこと関係ないだろ!」と吐き捨てた。 「何が母親らしいことだよ! 父さんを殺したくせに!」  母さんは俯いた。 「勝手にあの男と再婚までして、あんたは俺を一体何だと思っているんだよ!」  母さんは何も言い返さず、ただ寂しい顔を浮かべただけだった。 「あんたのそういうところが嫌いなんだよ! 昔から肝心なところはすぐに逃げて、何も言わないんだ! もう一緒にいるだけで、俺の頭がおかしくなりそうだ!」 「母さんは…」と一瞬、口を開きかけたがやはりそのまま口を閉じてしまった。  俺はもう我慢を抑えられなかった。 「あんたが母親だと思うと、最近死にたくなるんだよ! 頼むからもう母親面しないでくれ!」  そういって、俺は玄関を飛び出した。         *****  依然として、窓の外は激しく雨が降っていた。  バケツをひっくり返したように雨脚は増し、窓を叩きつける。  いっそのこと、この雨に俺の存在ごと洗い流してほしかった。  この世から消えるように。  そう思った時、スマホが震え、着信を知らせた。画面を見ると義理の父のナオヤからだった。  無視をしてスマホを脇に追いやっていたが、何度もしつこく着信は続いた。 「はあ」と深いため息を吐き、通話ボタンを押すと、義理の父の焦った声が耳に飛び込んできた。 「も! もしもし? ケンスケか? もしもし?」 「何?」 「母さんが…。キセキ川で溺れた…」
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