自分と母

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 母さんは静かに深呼吸をした。 「ごめんね…今まで黙ってて」  気が付くと俺の頬に一筋の線を描いていた。  それは悔しさのために流れたのか。  それとも、事実を聞かされて、流れたのか俺にはわからなかった。  ずっと俺は父さんが死んでから、母さんにとって父さんとの思い出が詰まった家は邪魔だから売り払い、母さんにとって父さんとの思い出の詰まった数々の思い出の品も見ていると気分が悪くなるから処分し、そして父さんに未練もないから平気で今の義父との再婚したと思い込んでいた。 「私は…ヒサシとの思い出が残った物が近くにあると、ケンスケが苦しむと思ったの…」  すべて俺のため。 『ケンスケの事は絶対何とかしてあげましょうね』  父さんとの約束…。  どこかで分かっていたような気がする。 「母さん…ごめん…。母さんの気持ちを全然考えていなかった。いつも自分のことばかりで…」 「ケンスケ…」  俺は母さんに顔を向けると母さんは笑っていた。 「もういいのよ。気にしないで」  よく見ると母さんの頬にも室内の光を受けて一筋の線が光っていた。 「母さん…」 「何? ケンスケ?」 「今まで…ごめん…」  そう言って、今までの馬鹿な自分から卒業することを決めた。
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