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「すみませんけどねぇ、県鳥を卒業したいのですが。」
突然、窓に現れたコマドリは、県知事である私にそう告げた。
ここはE県の県知事室。
毎日のように沢山の陳情が寄せられる場所だが、こんな“珍”情は後にも先にもないだろう。
「あぁ、自己紹介もせず申し訳ない。まぁ見てのとおりコマドリと申します。あなた様が県知事さんでしょう?ポスターでいつも拝見しています。」
「あ、それはどうも…。はい、私が県知事の前安と申します。」
お互い簡単な挨拶をすませると、コマドリはどっこいせとばかりに窓からピョイと飛び降りて、机の中央に羽根をおろした。
「アポも取らずに訪れて大変申し訳ない。しかし鳥というのは結構不便でしてね、電話も翼で持てないし、メール打つのも大変苦労するんですよ。だからまぁ、直接言った方が早いだろうと思いまして、今日越させていただいた次第です。」
「はぁ…そうでしたか。」
「でね、県知事さん。さっきも言ったように、私達コマドリを県鳥から卒業させていただきたいんですよ。」
「えぇと……と、とりあえず理由をお聞かせ願えますか?」
「あぁ、そうですよね。とにかく一番の理由は、他の鳥からの嫌がらせが酷いからです。まず“県鳥”という響きが偉そうに聞こえるじゃないですか。県で一番の鳥っていうイメージがつくというか。それを聞いた他の鳥は面白くないわけですよ。なんでコマドリなんかが一番なんだってね。そういう風に思うんですよ。ほら、鳥って皆嫉妬深いから。そうすると何が起きると思います?……そう、追い出しですよ。この山から出ていけ!ってな具合で、コマドリ一族が山に入らせてもらえない。こういう時だけ鳥たちって種族を超えて妙に団結するもんで、本当に入らせてもらえないんですよ。底意地の悪い鳥なんかはね、例えばカッコウとかですが、あいつらは猿たちなんかとも手を組んだりしてね、石とか糞とか投げつけてくるんですよ。最悪ですよ。」
「はぁ…そんなご苦労が…」
「まだ続きますよ。そんでもって仕方ないから、エサを求めて海の方にも行ってみるんですが、そこもまた酷い。海にいるウミネコやカモメも私たちを大変敵視するのです。それでもね、まだカモメはいいんですよ。他の県では県鳥やってるもんだから、多少私どもに同情してくれます。ところがウミネコはひどい。口が上手いもんだから、渡り鳥たちにもあることないこと吹き込んでね、エサ獲りの妨害をさせるのです。こっちはね、別に魚を狙ったりなんてしませんよ。小さな虫を食べたいだけなんです。だのに『これっぽっちもやるもんか!』ってすごい意気込みで、海からも我々コマドリを追い出すのですよ。しかもね…」
放っておくと、このまま朝までコマドリの陳情を聞くことになりそうだ。
それは勘弁願いたい私は、コマドリが水を飲んだ瞬間に急いで口を開いた。
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