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社会人編
真悟side
「よう、真悟~!こっちこっち!」
待ち合わせていた居酒屋で通された部屋に入ると同時に、匠の陽気な声が響いた。
「遅いぞ~、真悟。ほら、早く座れ座れ」
「あ、ああ…」
俺が座る間も惜しむようにグラスに酒を注ぐ匠の隣をチラリと見遣る。
「こ、こんばんは…」
「……君は…確か…」
匠の隣で少し困ったような居心地が悪そうな、何とも言えない表情で小さくぺこりと頭を下げた青年に見覚えがあった。
「こ、広報の…岡野恩です…」
高校を卒業してから8年が過ぎた。
あの頃の想いは胸に秘めたまま、あの頃よりはもう少しマシに見えるような恋愛をしてきた。
皆人と会わなければこの想いももしかしたら思い出にできるのかもしれないと、進学も就職も敢えて誰にも知らせず、皆人の居ない世界で新しい時間を生きていこうと思っていた。
けれど、
触れる事も、名前を呼ぶ事もできなかった人は、俺の中に影を色濃く残したままだった。
そんなある日、取引先の営業マンをしていた匠と偶然再会した。
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