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「ああ、そっか広報の」
「は、はい、いつもお世話になっています…」
まるで縮こまるようにしてお辞儀をした岡野恩と名乗った青年に、グラスを促し酒を注ぐ。
「何だよ真悟、恩と知り合いか?お前企画部だろ」
「うちは広報が文字どおり顔でな、広報の許可無しでは通らないんだよ。それで何度か打ち合わせで会ってんだ」
「へ~、そうなんだ」
「そっちこそ、どういう知り合いなんだ?」
「半年くらい前かなぁ。仕事でお前んトコの会社に行った時に初めて会ったんだけどさ、あんまり可愛いから~」
匠の隣で恩君がますます体を縮こまらせたのが分かった。
「手ぇ、出しちゃった」
「ぶっ!!」
てへぺろっと舌を出して笑った匠と、何か言おうとしてでも何も言葉が出なくてただ噎せるばかりの俺と、顔を真っ赤にして俯く恩君という、何とも不思議な絵面ができてしまった…
「はぁ?!…なっ、ちょっ、ええっ!?」
「いやあだってさぁ、こんな可愛いんだぞ?そら手ぇ出すだろ~」
「そ、そんな…」
耳まで真っ赤に染めて呟いた恩君に、何となく匠の気持ちが分かる気がした。
まぁ、確かに?こんな風に頬を染められたら…
コホンと小さく咳払いをすると、恩君にできるだけ優しく声を掛ける。
「あ~~のさぁ、…君は………良いの?」
「え?」
「その~~……匠みたいな奴と…」
「 “みたいな” とは何だよぉ!」
抗議の声を上げる匠をスルーする。
「仕事を盾に、嫌々とか無理矢理とかじゃ」
「そんな事無いです!」
真っ赤な顔で、でもきっぱりと言い切った恩君を見る。
「そ、そりゃ、びっくりしたし…そ、その…男の人となんて初めてだったけど……でもっ、僕は匠さんが好きです!」
一気に言った後シュ~ッという音が聞こえてきそうなくらい頬を染め、恩君はまた俯いてしまった。
そんな恩君を嬉しそうに愛しそうに見つめながら、彼の手を握る匠は本当に幸せそうに見えた。
俺も皆人に「好きだ」と伝えられていたなら……こんな風に笑えただろうか?
「じゃあな、また時間作って一緒に飲もうぜ」
「ああ。じゃあな、匠。め…恩君も」
「は、はい!お休みなさい」
深々と頭を下げた恩君と匠に手を振って歩き出そうとした時
「そうだ、真悟!今度同窓会があるけどお前も来るよな?」
「…え?」
振り返った俺に匠がニコニコしながら手を振る。
「俺、幹事任されてんだよ。皆人と一緒に」
皆人に……会える?
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