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「匠こそ仕事、上手く行ってるんじゃないのか?」
「え~?何でだよ?」
「顔がニヤけっ放しだぞ。何か幸せオーラが出てるし」
「え~?分かる~?」
匠がニヤニヤしながら、自分の両手で頬を包む。
「何だよ、気持ち悪いな」
「俺さ~、実は恋人ができたんだ~」
「へえ、良かったな。お前、大学2年の時に別れてからずっと彼女居なかったもんな。どんな子?彼女って」
「いや、彼女じゃない。彼氏だ」
「は?」
摘んでいた唐揚げが箸先から落ちた。
「……は?…え、今何て?………カレ…シ?」
「そう。岡野恩って立派な成人男性だ。ほら、可愛いだろ~」
匠が鞄から出したスマートフォンの画面を操作して俺に見せた。
そこには、満面の笑みの匠と恥ずかしそうに少しはにかんだ笑顔の可愛らしい少し年下と思しき青年が、頬が触れそうな距離で映っていた。
「俺より2つ年下なんだけど可愛いだろ~」
「あ、ああ……そうだな…」
驚きの余りそうとしか言えず、落ち着こうと水の入ったグラスに手を伸ばす。
「いつだって可愛いんだけど~、ベッドだと可愛さにちょっとエロさがプラスされて更にイイんだよな~、これが」
「ぶっ!!」
思い出し笑いするかのようにニヤけた匠の一言に、思わず水を吹き出した。
「おおっ、大丈夫か?皆人!」
「なっ、おまっ、えっ…はぁ?!」
背中を摩ってくれる匠のシャツの襟元を掴むと、少し周りを確認してから顔を寄せる。
「お前なぁ!いきなり何言ってんだ!少しは場所を考えろよっ!!」
「え~、だって本当の事だし~」
反省の色無く言う匠に呆れて小さな溜め息を吐くと、掴んでいた襟元から手を離す。
「…どうやって知り合ったんだよ?」
「いや~、取引先のトコに営業で行ってさ、そこで新人の恩が応対してくれたんだけど、もうマジで俺の一目惚れ!」
「…で、その……め、メグム君だっけ?よくOKしてくれたな?」
「いやもう、そこは攻めの一手よ!押して押して最終的に押し倒しちゃった的な?」
「お前なぁ……同情するよ、その彼に」
アハハと笑った匠が、急に穏やかな表情になった。
「でもさ、この前恩が言ってくれたんだ。『僕は匠さんが好きです!』て」
「…ふ~ん、良かったな」
「まあ、あれは真悟のお蔭だけどな」
「え?」
不意に飛び出した名前に、思わず匠を振り返る。
「……しん…ご…?」
「そう。アイツさ、その恩んトコの会社の企画部に居るんだよ!俺もビックリした!高校卒業以来だもんな。相変わらずムカつくくらいカッコイイしさ~」
「へ、へえ…そうなんだ」
真悟の名前に、あの横顔を思い出す。
今でも鮮明に思い出せる。
「そうそう、真悟も同窓会に出られるってよ」
「え…?」
真悟に……会える?
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