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叫んだ瞬間に強烈な光が俺を照らして目が覚めた。
なんだ、やっぱり夢か。母親はとっくに死んだはずだ。眩しさに耐えながらも目をあけると目の前にはモザイクタイルのようにひび割れたガラスが見えた。今度はどこだ?起き上がろうとしても指一本動かせない。体中が痛い。
モザイクタイルのようにひび割れたそこからは、容赦ない太陽の光が降り注いでおり、唯一動く目だけで様子を確認した。どうやら車内らしい。事故か?体が動かせないのはたぶん首の骨が折れているのだろう。
だが、俺は事故の記憶はない。最後の記憶は、老婆と金平糖。そんなことを考えていると、突然フロントガラスに、バンッと衝撃が走り、何かがフロントガラスの上に落ちて来た。
「ヒィッ」
それは血まみれで、手足があらぬ方向にねじ曲がり、目には木の枝が刺さった崖から俺が突き落としたあの女だった。
俺は見開いた目でそいつを見ていると、そいつの口が耳元まで裂けた。
笑ったのか?
俺はたぶん車ごと崖から落ちたのだと悟った。波音が聞こえる。
助けて、誰か。こんな所で死にたくない。
罪は償う。刑務所でもどこへでも行くから。頼む、誰か俺を見つけて。
「無理だよ」
外から声がした。俺は目だけで声のする方を見た。
あの老婆だ。雨も降っていないのに真っ赤な傘を差している。
「な・・・ぜ?」
声にならない声を絞り出す。
「だって、アンタあれを食べただろう?」
金平糖のことか?
「よもつへぐいって知ってるかい?」
なんだそれ。知らない。
「アンタはあの世の食べ物を口にしてしまった。もう戻れないよ」
笑うフロントガラスの女。容赦なく照り付ける太陽が俺を焼き尽くす。
俺はこのまま死んでいくのか?
「死ぬんだよ。お前は死ぬのさ」
助手席から声がした。ああ、その声は見なくてもわかる。
「かあさん」
最後までアンタは俺に酷い仕打ちをするんだなあ。期待してはいないが、せめて最後くらい大丈夫だよって慰めて欲しかった。
自業自得ってやつか。最初に俺が殺したのはアンタだっけ。今までになく、激しい暴力で俺は心も体もズタズタだった。だがアンタは俺を侮りすぎた。酔いつぶれて布団で眠るアンタを確認してから、俺は包丁を取り出した。
あのヒステリックな声を聞きたくなかった。だからアンタの白い喉に向かって包丁の切っ先を力いっぱい振り下ろした。驚愕の表情を浮かべたが声は出なかった。その時の俺は冷静だった。
俺はアパートの畳を剥いで確認した。思った通りだ。木造の安アパートの床板は簡単に剥がせるようだ。一晩中穴を掘った。大人の女を丸ごと埋められるくらいの大きな穴を。そこに母親を引きずり埋めた。
そして警察に母親の捜索願を出した。ねえ、アンタはまだあそこで眠っているはずなのに、どうして車の中にいるんだい?それともこれは俺の幻聴なのか?それにしても暑いなあ。車内はたぶん40℃近くはあるだろう。昼ともなれば軽く60℃にはなるだろう。窓を開けとけば良かったかな。まあ、そんなことはもうどうでもいいや。眠いんだ。このまま眠らせてくれ。
「おい、アンタ、大丈夫か?」
外で声がする。もしかして、俺は助かるのか?
盛大な舌打ちが耳元でした。
「この男性の身元はわかりましたか?」
「ええ、身元はわかったんですが、身寄りが誰も居なくて。母親は失踪。元妻に連絡しましたが、再婚されてまして。もう関係ないと」
「厄介ですねえ。植物状態で誰も面倒を見る者がいないなんて」
死んだくらいじゃあ、罪は償えないよ。
チューブにつながれて、一生地獄をみればいい。
そうそう、お情けで耳だけは聞こえるようにしといたから。
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