ケース🔟 前世来世

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ケース🔟 前世来世

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 いつしか、貴志の脳裏に過去の映像が浮かびはじめる。 —————・・・笑いながら、走り回る女の子。貴志は、その女の子を追いかけていた。 「待てよ〜。走ると危ないぞ。」 しかし、女の子は気にせず笑い続けながら、走る。 貴志は、更に追いかけた。 「千恵〜! 待てったら!」 千恵は、逃げ続ける。 そうして、やっとの思いで、貴志は千恵を捕まえた。 「よし! やっと捕まえたぞ、千恵!」 「あ〜あ、捕まっちゃった。」 千恵は、残念そうにしながらも、貴志を見ると嬉しそうに笑った。 この貴志は、10歳。千恵は、5歳。 「貴志兄ちゃん!」 千恵がそう言った。 名前は、秋原 千恵(あきはら ちえ)。 貴志の妹である。 まだ5歳の小柄な千恵は、貴志を見上げて言った。 「千恵ね。貴志兄ちゃんに、教えたい事があるんだ。」 貴志は、不思議そうにして聞き返す。 「教えたい事? 何だよ〜。」 千恵は、少し照れ笑いした。 「えへへ。・・千恵の秘密の事。」 そう聞いて貴志は、興味を示しながら話す。 「え〜⁈ 千恵の秘密〜⁈ 何だよ〜、秘密って。」 「あのねえ、誰にも内緒だよ〜。」 すぐに教えてくれない千恵。すると貴志が、 「誰にも言わないから、・・・・教えろ〜!」 そう言って、千恵の体をこそぶる。 千恵は、元気な声ではしゃいだ。 ————。 浮かんだ映像は、そこで途切れる。 「おい、貴志! 大丈夫か⁈ しっかりしろ!」 鬼切店長の呼びかける声が、繰り返された。 「あ、すいません。大丈夫です。」 貴志は、返答する。 更に、鬼切店長が声をかけた。 「・・良かった、心配したぞ。『前世』を見る為に目を閉じて、数分後ぐらいに大きな声を発したかと思うと目を開けて・・。何か体調が悪くなったのかと思った。」 「いや、本当に大丈夫です。すいません、心配かけて。」 貴志は、頭を下げて謝る。 そして、鬼切店長が尋ねた。 「で・・? 妹・千恵ちゃんの『前世』は、見えたのか?」 貴志は、少し困惑しながら答える。 「え、あ、はい。千恵の『前世』、見れました。」 「そうなのか! 良かったじゃないか! 千恵ちゃんにも『前世』があったんだな! それで、どんな『前世』だった?」 嬉しそうに歓喜して聞いてくる鬼切店長だったが、貴志の方は少し躊躇の様子が伺えた。 「あ、・・・はい。それが・・・・、千恵の『前世』は・・・。」 鬼切店長は、不思議に思いながら聞き返す。 「ん? 何だ? どうしたんだ?」 「それが、・・・・実は、千恵の『前世』は、男性だったんです。」 少し驚きを見せる鬼切店長だったが、すぐに切り替えた。 「男性⁈ そうか・・・。まあ、『前世』が異性逆という事は、あり得るみたいだからな。」 「まあ・・そうなんですが。」 そこで貴志は、口籠《くちご》もって言う。 「ん? 他に何かあったのか?」 疑問に思った鬼切店長が、尋ねた。
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