ケース🔟 前世来世

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そこでポツリと、誠が声を発する。 「・・・なあ。」 「何?」 久美子が、返答した。 誠は、天井を向いたまま続ける。 「あのさ。生まれ変わりって、あると思う?」 「え? 生まれ変わり? ・・何で急に、そんな事、聞くの?」 誠の方を見ながら、久美子が不思議そうに尋ねた。 「あっ、いや。なんとなく、そう思っただけだけど。・・生まれ変わりって、ほら・・・つまり、『前世』だよ。そんなの、あると思うか?」 久美子は一瞬、静止して考えをまとめている様子だったが、すぐに回答する。 「う〜ん・・。どうかなぁ。『前世』って、あるような気がするけど・・・。」 「そうか・・。いや久美子って、ほら、UFO とか未知の生物みたいなテレビ番組が好きだろ? だから、『前世』とかって、あるのか知ってるかなあ〜って思って。」 暗闇の沈黙した部屋に、二人の会話が飛び交った。 「まあね〜。私は確かに、そういうオカルト系とか、神秘に包まれた謎が解かれていくのが好きだったりするけど。でも、世の中って、まだまだ分からない事がたくさんあると思う。UFOとか宇宙人とかの存在も、人それぞれの価値観なんじゃないかなあ〜。」 「そうか。久美子の言う通りかもな。真実って結局分からない事が多いし、後は信じるか、信じないかの違いだよな。」 今日は不思議なくらい、いつも以上に静かな夜だ。 誠が、チラリと久美子の方を向きながら言う。 「俺の『前世』って、どんな人間だったんだろうな。金持ちだったかな? いや、有名人だったりして。ハハ。」 「何言ってるの〜。そんな都合良いわけないじゃない。男か女かも分からないのに。もしかしたら、日本人じゃないかも。」 「えっ? 俺の『前世』って、女だったかもしれないのか? 日本人じゃないなら、・・アメリカ人とか。」 弾むように、次々と会話が行き交った。 「ハハハ! だから〜、『前世』はそんな都合良いように選べないって。誠は、もしかしたら犬だったかもよ。」 「えっ〜⁈ まさかの犬⁈ 」 「いや、犬でもない。・・・ゴキブリだったかも。」 「うわ〜〜〜、その『前世』、最悪じゃん。」 「ゴキブリ誠〜! こっち近づかないで〜! ハハハハ!」 「何言ってるんだ。久美子だって、元ゴキブリの妻って事になるんだぞ。」 「嫌だ〜〜〜。明日、殺虫剤買ってこよう。」 真っ暗な部屋の中、珍しく夫婦の会話が楽しそうに交わされる。 その後、少し沈黙が続いた。 久美子の方が、話題を変えて問いかける。 「ねえ、誠。今度の日曜日、休みでしょ? 一緒に買い物でも出かけようと思うんだけど。」 しかし、その投げかけに誠の返事はない。 「ねえ? 聞いてる誠?」 その後、暗闇の中にある久美子の横の布団から、誠の寝息が聞こえてきた。 「もう、寝てる・・。」
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