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そこでポツリと、誠が声を発する。
「・・・なあ。」
「何?」
久美子が、返答した。
誠は、天井を向いたまま続ける。
「あのさ。生まれ変わりって、あると思う?」
「え? 生まれ変わり? ・・何で急に、そんな事、聞くの?」
誠の方を見ながら、久美子が不思議そうに尋ねた。
「あっ、いや。なんとなく、そう思っただけだけど。・・生まれ変わりって、ほら・・・つまり、『前世』だよ。そんなの、あると思うか?」
久美子は一瞬、静止して考えをまとめている様子だったが、すぐに回答する。
「う〜ん・・。どうかなぁ。『前世』って、あるような気がするけど・・・。」
「そうか・・。いや久美子って、ほら、UFO とか未知の生物みたいなテレビ番組が好きだろ? だから、『前世』とかって、あるのか知ってるかなあ〜って思って。」
暗闇の沈黙した部屋に、二人の会話が飛び交った。
「まあね〜。私は確かに、そういうオカルト系とか、神秘に包まれた謎が解かれていくのが好きだったりするけど。でも、世の中って、まだまだ分からない事がたくさんあると思う。UFOとか宇宙人とかの存在も、人それぞれの価値観なんじゃないかなあ〜。」
「そうか。久美子の言う通りかもな。真実って結局分からない事が多いし、後は信じるか、信じないかの違いだよな。」
今日は不思議なくらい、いつも以上に静かな夜だ。
誠が、チラリと久美子の方を向きながら言う。
「俺の『前世』って、どんな人間だったんだろうな。金持ちだったかな? いや、有名人だったりして。ハハ。」
「何言ってるの〜。そんな都合良いわけないじゃない。男か女かも分からないのに。もしかしたら、日本人じゃないかも。」
「えっ? 俺の『前世』って、女だったかもしれないのか? 日本人じゃないなら、・・アメリカ人とか。」
弾むように、次々と会話が行き交った。
「ハハハ! だから〜、『前世』はそんな都合良いように選べないって。誠は、もしかしたら犬だったかもよ。」
「えっ〜⁈ まさかの犬⁈ 」
「いや、犬でもない。・・・ゴキブリだったかも。」
「うわ〜〜〜、その『前世』、最悪じゃん。」
「ゴキブリ誠〜! こっち近づかないで〜! ハハハハ!」
「何言ってるんだ。久美子だって、元ゴキブリの妻って事になるんだぞ。」
「嫌だ〜〜〜。明日、殺虫剤買ってこよう。」
真っ暗な部屋の中、珍しく夫婦の会話が楽しそうに交わされる。
その後、少し沈黙が続いた。
久美子の方が、話題を変えて問いかける。
「ねえ、誠。今度の日曜日、休みでしょ? 一緒に買い物でも出かけようと思うんだけど。」
しかし、その投げかけに誠の返事はない。
「ねえ? 聞いてる誠?」
その後、暗闇の中にある久美子の横の布団から、誠の寝息が聞こえてきた。
「もう、寝てる・・。」
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