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分娩室の外廊下で、無事を祈りながら待っている蓮浄。
「こんな時、祈る事しか出来ないんだねぇ。」
分娩室では、急を迫る状況が訪れていた。
けいれんを続ける弘子に意識はない。
「硫酸マグネシウム、静脈内投与! 急いで!」
担当医が看護師に指示を出した。
「まずい! 胎盤剥離の恐れもあるし、多量の出血が予測される。胎児にも影響がある。カイザーに切り替えるしかないな。」
それから約1時間後、分娩室から担当医が出てきた。
待ちかねていたかのように、蓮浄がすぐに立ち上がり、その言葉を待つ。
「先生⁈」
やや俯き加減に、担当医は説明をはじめた。
「途中で帝王切開に切り替え、無事に胎児は取り出せました。今のところ、大丈夫です。」
ホッと安堵の表情を浮かべる蓮浄であったが、すぐに心配が押し寄せ、再び担当医に尋ねる。
「あの、娘は?」
首をもたげたまま、軽く横に振って答える担当医。
「・・・・手を尽くしましたが、ダメでした。」
「⁈ ・・ダメって。何で⁈ さっきまで娘は、元気だったじゃないですか! どういう事ですか⁈ 娘に会わせてください!」
蓮浄は、大声で怒鳴るように担当医に食い下がり、居ても立っても居られなくなり、分娩室の中へと駆け込んでいく。
「あっ、待ってください! ちょっ・・」
弘子に会いに分娩台まで来た蓮浄は、呼びかけてみた。
「弘子! 無事に産まれたよ! お前は、よくやったよ!」
しかし分娩室の上で、グッタリと寝たまま動かない弘子。
蓮浄が、体を掴んで揺さぶり起こそうとする。
「弘子! 何、まだ寝ているのかい? 弘子!」
そこへ担当医が、蓮浄へ告げた。
「娘さんは、どうやら妊娠高血圧腎症に罹患していたようです。」
「えぇっ⁈ それって、どういう・・?」
「妊婦の約3~7%が妊娠高血圧腎症を発症します。妊娠高血圧腎症の主な症状は、タンパク尿を伴う血圧上昇があります。妊娠高血圧腎症を治療しないままでいると、突然けいれん発作(子癇)を起こすことがあります。速やかに治療をしなければ子癇は通常、致死的になります。ですが本来、妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降および、通常は分娩後1週間を迎える前に発症するものです。今回、娘さんの場合は、稀なケースで、分娩中に重篤なけいれんが起こってしまいました。おそらく、妊娠初期から症状が続き、悪化していたのでしょう。」
そこで蓮浄が、担当医の胸ぐらを掴み訴える。
「そんな事‼︎ ひどいじゃないか! 出産は、母子が無事で当たり前だろ! 医者の責任だろ!」
担当医は、困った様子で対応した。
「ちょっと・・そんな事言われても、困ります。」
蓮浄は顔を涙で濡らし、睨むような目つきで担当医を見返す。
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