ケース🔟 前世来世

17/80
前へ
/80ページ
次へ
それから数時間後。 霊安室で、白い布に包まれた弘子と二人、蓮浄はブツブツと呟きながら、床に座り込んで泣いていた。 「・・弘子。・・・弘子。」 他に誰もいない空間で、蓮浄は唯一の家族である娘・弘子にしがみ付くように、ただ泣き続けている。 「こんな事ってあるのかい? おかしいだろ? ・・これから、弘子と孫と三人で、生きていくはずだったじゃないか・・・。」 そうして、ほんの少し沈黙が続いたかと思うと、突然蓮浄が顔を上げて、何か思い出したかのように声をあげた。 「⁈ もしや・・・。これは、・・。あの桜北 誠の呪い? 自分だけ死ぬのは、口惜しいと思い、何の霊力もない弘子を道連れに、命を奪っていったんだ・・。きっと、そうなんだ。」 蓮浄は、まるで悟ったかのように天井を見上げて独り言を言う。 「アビゲイル・ウィリアムズ・・。こんな所まで、呪いを・・。弘子の命を奪い、今度はまた自分自身が、早く生まれ変わるつもりなんだね。」 今まで悲しみに暮れていた蓮浄からは、怒りの感情が溢れていった。 「アビゲイル・ウィリアムズ! アイツの生まれ変わり桜北 誠が、魔女の力を使って人々の命を奪う事なく阻止出来たと思っていたのに・・・。私の大切な娘の命を奪っていった。」 蓮浄は、沸々と湧き起こってくる怒りと悔しさを震えながら表出していく。 「・・・そうと分かれば今後、桜北 誠の生まれ変わりを探すしかない。きっとヤツは生まれ変わってくる。そいつを必ず、見つけ出す!」 薄暗い沈黙の霊安室で、蓮浄は怨念にも似た復讐を一人誓うのであった。 ——————————————————。 ふと、深い眠りに似た感覚から、目を覚ます貴志。 傍で心配そうにしていた鬼切店長が、手を差し伸べてきた。 「貴志。大丈夫か?」 しかし、まだ俯いたままの貴志は、どこか様子が違っている。 払拭するかのように、貴志は鬼切店長の手を振り払い、険しい表情を見せた。 「えっ? どうしたんだ、貴志?」 疑問を投げかかる鬼切店長の顔も見ないで、貴志は強い口調で返す。 「・・・あまりにも、酷いじゃないですか。鬼切店長の祖母は、桜北 誠を呪い殺したんですよ。酷い人間です。信じられない。」 呆気に取られている鬼切店長は、それでも貴志を見つめ、ゆっくりと話しかけた。 「貴志。まあ、落ち着けよ。」 やるせない思いで、貴志は首を横に振りながら言う。 「いくら、鬼切店長の祖母でも、俺は許せませんよ。アビゲイルっていう昔の魔女とかの怨念があるみたいだけど・・。そんなの人間は生まれ変わってきたら、過去の事なんて憶えているわけないし。生まれ変われば、過去とか関係なく、今は今でしょ。」
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加