ケース🔟 前世来世

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そうして緊迫感が和らいだ後、アブが話しはじめる。 「フッ。仕方ない子たちだね。ただ一つだけ・・忘れるんじゃないよ。何かあれば、いつでもここに帰っておいで。」 その言葉を聞いて、メグは思わずアブに抱きついていた。 「アブ。・・本当に、ありがとう。」 やがて、別れの時間が訪れる。 敢《あ》えて人目につきにくい、日付が変わる深夜0時に、行動を開始した。 全長30フィートクラスの中型クルーザーが、岸部に繋ぎ止められてあり、闇夜に潜んでいる。 アブとプランクが四姉妹を見送る為、岸辺まで来たのだ。 四姉妹はそれぞれが、アブとプランクの両者とハグを交わすと、別れを惜しみながらクルーザーへと乗り込む。 「アブ。プランク。本当に、ありがとう。」 再び、メグが2人へお礼を告げた。 それに合わせて四姉妹が手を振る。 「ありがとう。」 幼いエイミーが、言葉を伝えた。 手を振り返すアブとプランク。 優しい潮風が、それぞれの頬を撫でていった。 四姉妹が乗ったクルーザーは、夜の島を離れていく。 小さく小さく見えなくなっていくアブとプランクは、いつまでも手を振っていた。 翌日の午後。 時計が15時過ぎを指した頃、病院の診察室で担当医の説明を聞いている貴志の姿があった。 デスクには、難しそうなレントゲン画像や検査データが並んでいる。 担当医が話し続けながら、当惑している様子を窺わせた。 「う〜ん。・・だいぶ回復してきているんだが、ねぇ。」 貴志が、単刀直入に尋ねる。 「あの、退院はまだですか?」 そこで担当医は、腕組みしながら腰掛けている椅子の背もたれに体を預けた。 「退院・・だね〜。う〜ん、もう少し回復すれば、出来るかもしれない。」 「あ、そうですか。もう少しなんですね。」 貴志は、良いとも悪いとも捉えられる説明に、どうしたら良いのか戸惑っている。 担当医が、付け加えた。 「君のお母さんは、元々心臓が弱っていた上に、更に何らかの衝撃が与えられて、かなり悪い状態だった。今回の検査結果をみても、だいぶ回復してきているが、医者としては、もう少し状態をみたい。焦ってもダメだからね。」 「あ、はい。」 貴志は、納得せざるを得ない。 再び、パソコンへと顔を向けた担当医が告げた。 「本当は、君のお父さんにも、きちんと来てもらって、病状説明を聞いてもらいたいんだが・・。」 そこで気まずそうになりながら、貴志は答える。 「あ、父は、・・研究所に勤めているので、なかなか忙しいんで・・。」 そうして貴志は、担当医に一礼して診察室を出た。
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