ケース🔟 前世来世

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貴志は、それに答える。 「まあ、俺自身も驚いているんですが・・・。実は『前世』で、俺と千恵は夫婦だったみたいなんです。」 「夫婦⁈ ・・なるほど。そういう事もあるんだな。『前世』で夫婦。そして生まれ変わったら、兄妹として一緒にいる、って事だな。」 貴志が、台の上に置いてある妹・千恵の写真を見ながら言った。 「俺、今やっと分かった気がするんです。ずっと夢で見ていた、過去の場面・・。千恵が何か秘密を言おうとしていた事。それは、俺と千恵が、『前世』では夫婦だった、って事じゃないかと。」 鬼切店長は腕組みしながら、考え込む態度で返す。 「う〜ん、・・そうか。その事を伝えたかったのかな? でも、もしそうなら、妹・千恵ちゃんは、どうやって『前世』を知ったんだ?」 そう言われて、貴志も考え込んだ。 「えっ? え〜と、それは・・・。あっ、多分、鬼切店長の祖母・蓮浄さんと繋がりがあって、コッソリ見てもらったんじゃないでしょうか?」 鬼切店長は、訝《いぶか》しげな顔をして言う。 「うちの祖母から見てもらったのか・・。まあ、その可能性はあるな〜。」 「それしかないかな、と思いますけど。他に『前世』を見れた人がいるとは思えないですし。」 貴志が話した後、鬼切店長は別の事に気がついて投げかけた。 「ん? それは、いいんだが。千恵ちゃんの『前世』を見て、どうしてお前は、結婚している相手がお前だって分かったんだ? 『前世』だから、名前も知らない人物だろうし、しかも女性だったという事なんだろ?」 そこで貴志は、急に照れ臭そうな顔をして返答する。 「あ、はい。千恵の『前世』は男性でした。その相手の女性が俺で、・・二人は夫婦だったんです。」 鬼切店長は首を傾げて、腑に落ちない表情になった。 その様子に、貴志は恥ずかしそうにしながら、仕方なく答える。 「あっ、その・・・実は、ずっと前に、俺・・気になって、自分の『前世』をほんの少しだけ見た事があるんです。その時、俺自身の『前世』が女性だったんだ、って初めて知りました。『前世』で性別が逆なんて有り得る事なんですが。その時、何かショックというか驚きで、すぐに自分自身の『前世』を見るのをやめたんです。」 それを聞いて、鬼切店長はやっと納得の顔になった。 「そういう事だったのか。まあ自分自身の『前世』が、どんな人だったのか、気になって当然だ。だが、・・まさか貴志が『前世』で女性だったなんて、な。」 鬼切店長は意外な事実に、少し苦笑いをする。
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