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体育館の屋根ほどの高さに位置している珠里は、周辺の景色や町並みを見渡す事が出来た。
「誰か、助けて〜!」
精一杯の声で叫んでみる。
体育館のすぐ隣にある学校の校舎は、地震の影響もなく無事なようだったが、あいにく放課後だった為、校舎内には誰もいないようであった。
「誰か〜、助けて〜!」
それからも諦めずに、何度か叫んでみたが、珠里の声は虚しく向こうにある山にこだましていくだけであった。
校舎以外を見渡してみると、近くに河川があり、そこに2〜3台ほど落ちている車が見えたが、それ以外は地震がおさまったタイミングをみて、慌てて走り去っていくのが見える。
その他に見える景色は広い農地と、木々の生い茂った小高い山があるだけだった。
今はまだ、人を助ける余裕などないのかもしれない。
体育館で一緒に遊んでいた友人らは、そのうちの一人が足を怪我したようで、無事だったが子たちがその子のもとに集まっていた。
「珠里ちゃ〜ん、待っていてね! 誰か大人の助けを呼んでくるから!」
崩れた瓦礫の所から友人の一人がそう叫ぶと、怪我した友人を何人かで支えながら、助けを呼び求めにいく。
崩れかけた体育館のバスケットゴールに一人残された珠里。
不安を抱えたまま、時間だけが過ぎていき、疲労が襲いかかってくる。
そんな最中、微かな声が聞こえた気がした。
気を取り直して、耳を澄ましてみる。
「珠里〜。珠里〜。」
誰かが珠里の名前を呼んでいた。
崩れた体育館内を見下ろすように、珠里はその声を探す。
果たして、そこで見えたのは、珠里の名前を呼び続けている父だった。
「お父さん⁈ ・・・お父さ〜ん!」
珠里は、父の方へと返事を返す。
珠里が瓦礫の下敷きになっていないかと、下の方ばかり探していた父は、まさかの上に取り残された珠里を見つけて、その状況を知るのだった。
「珠里! 大丈夫か? 怪我は?」
珠里は、下方にいる父へと投げかける。
「うん。・・私は大丈夫!」
「よし! 待ってろ! すぐに助けてやる!」
そう言うと、父はまたすぐに何処かへと立ち去っていった。
すぐに現れた父が持っていたのは、束ねられた頑丈そうなロープであった。
普段、自警団の訓練とかで準備していたロープを今、車の中へと取りに行ってきたのだろう。
「珠里! いいか! このロープを投げるから、受け取ったら、そのバスケットゴールにしっかりと取り付けるんだ!」
珠里は、とりあえず頷いてみせた。
そうして父は、先にフックの付いたロープを珠里の方へ向かって投げ渡してくる。
何度か失敗したが、繰り返すうちに、うまく珠里の所にロープの先端が引っかかった。
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