9人が本棚に入れています
本棚に追加
頭の中が、疑問だらけの江戸川は、呆気に取られた顔で聞き返す。
「何だよ⁈ さっきから、何の話だよ!」
まだ慌てた様子の珠里は、周辺の通り道を覗き込んだり、左右の通りの先を見渡してみたが、時既に遅かった。
そして、後悔の言葉を吐き捨てる。
「あれは、間違いなく、探している四姉妹の一人だったはずよ! アメリカ人の女の子だった。」
「何⁈ 四姉妹の女の子と、接触したのか⁈」
聞き返す江戸川をよそに、珠里は唇を噛み締めながら言った。
「あの、青い瞳・・。あの顔・・。忘れないわ。」
何事もなかったかのように、商店街はいつもの雰囲気で、町行く人々が通り過ぎていく。
夕焼けに染まる、スーパーエブリィの建物。
そんな穏やかにみえる雰囲気も、スーパーの中では来客の波に奔走していた。
「ええぇっ⁈ 辞めた⁈ 」
店内の来客たちが、その遠慮のない大声の方へ注目を集めている。
そこで騒がしく戸惑いの声をあげているのは、小太り体型の店員、廣川 大助であった。
彼は、周囲の目も憚《はばか》らず、年配の女性店員2人から聞いた話で困惑している。
そうして買い物客を掻《か》い潜《くぐ》りながら、通路を走り抜けていった。
彼が辿り着いたのは、食品売り場で他の店員と話をしていた鬼切店長の所である。
廣川は、膨らんだお腹を揺らしながら、体型とは似合わないスピードで、鬼切店長の傍までやってくると、ハァハァと息切れさせて呼吸を整えていた。
「おい。どうしたんだ?」
突然の荒々しい様子に、鬼切店長が驚いて尋ねる。
廣川の今の状態だけ見れば、フルマラソンを走り続けてきた選手がゴールテープを切った直後の、まさにそれだった。
平静な呼吸もままならないで、廣川自身も急を要する状況で問いかける。
「ハァ・・ハッ、店長。・・美咲ちゃんが、バイト辞めたって、本当ですか?」
鬼切店長は、冷静な表情で質問に答えた。
「ああ。そうだ。辞めたよ。」
「そんなぁ〜〜〜〜!」
その現実的な確証を得て、廣川はまた大きな声をあげる。
「まあ、急だったけど。理由があるし、あの子だって、いつまでもバイトだけやってるわけにはいかないだろうからな。将来を見据えて頑張ってほしいからな。」
鬼切店長が、話を付け加えた。
グッタリと顔を項垂れて、溜息をつく廣川。
「あ〜・・・。まだ美咲ちゃんの携帯番号も、LINEも聞いてなかったのに・・。」
そんな廣川の肩を、軽くポンッと叩きながら、鬼切店長が励ます。
「まあ、みんな、彼女が辞めた事は残念だと言うけれど。仕方ない事だ。みんなで応援してやろう。」
最初のコメントを投稿しよう!