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「ところで貴志。もうすぐ、家に帰るか?」
そう聞かれて、貴志は戸惑いながら答える。
「え? あ、まあ。今日は来た時、母さんとは面会して会話したし、そろそろ帰ろうとしていたところです。」
鬼切店長が、少し真剣な表情になって、伝えた。
「そうか。実はな、お前に見せたい物があってな。凄い物を見つけたんだ。この後、俺の家に来ないか?」
ハッとした貴志は、一瞬躊躇《ためら》いを浮かべたが、すぐにコクリと頷いてみせる。
「・・・はい。分かりました。行きます。」
そうして、鬼切店長の車の助手席に乗り込み、久しぶりに店長宅へと貴志は招かれた。
鬼切店長宅へと入ると、早速案内されたのは、奥の和室である。
貴志は、鬼切店長の後に付いていき、和室へと入った。
和室は前回来た時と同様に、微かな線香のような匂いを漂わせている。
僅か6畳程の広さのこの部屋は、その畳のせいか、落ち着く雰囲気を与えてくれた。
部屋の奥側にドッシリと佇んでいる黒い仏壇に、貴志は思わず釘付けになって見とれていたが、鬼切店長はいつの間にか、仏壇の横にある開きの収納扉を開けている。
「先日お前が帰っていった後、俺なりにこの収納にある巻物を読んでみたりしたんだ。」
鬼切店長は、そう話ながら何やらゴソゴソと物を扱っていた。
「その時に、ある物を発見し、是非お前に見せようと思っていたんだ。」
そうして、収納の奥から朱色の木箱を取り出してくる。
それを部屋の真ん中の畳の上に置いて、鬼切店長が告げた。
「この箱なんだが。収納の一番奥に入れられていたから、それまで気が付かなかったんだ。まあ、開けてみろ。」
「は、はい。大きさ自体は、あの水晶玉が入っていた黒い漆塗りの箱と同じ感じですね。」
貴志はそう言いながら、箱の前に座り、言われるままにそっと蓋を開けてみる。
中には、紫色のシルクのような包みが被せてあり、何かを大事そうに収めている感じだった。
貴志が、その紫色の包みを広げてみると、中から、ツヤのある深緑色した、拳大の丸い石が現れる。
その石は決して派手ではなく、ダイヤモンドのように煌びやかな輝きこそ放っていなかったものの、その内なる雰囲気は、どこか神秘的でオリエンタルな魅力を醸し出していた。
「こ、これは⁈」
貴志がその石に戸惑いながら、その正体を分からずにいると、鬼切店長が説明する。
「その石は、翡翠《ひすい》だ。」
「翡翠⁈」
貴志は、その石を見つめ返した。
「そうだ。翡翠だ。お前も、その名前ぐらいは聞いた事あるだろう。」
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