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そう聞かれて、貴志は口籠もりながら話を続ける。
「あ、別に大した意味もないかもしれませんし。なんとなく・・。」
「どうした? 言ってみろ。」
更に、鬼切店長が聞き返した。
「あの、もし良かったら、鬼切店長のお母さんの写真を見せてもらいたいな、と思って・・。」
「え? 俺の母親の写真?」
突然の事に、鬼切店長も戸惑いをみせる。
貴志は、ただコクリと頷いた。
「俺の母・弘子の写真・・。といっても、俺を産む時に母は亡くなってしまったから、俺自身も会った事ないんだがな。俺は、祖母の蓮浄に育てられたんだ。」
「あ、そうだったですよね。嫌な事を思い出させてしまって・・すいません。」
貴志はまた、申し訳なさそうに頭を下げて謝る。
「いや全く気にする事はないよ。会った事はないが、祖母がいつも母の写真を見せてくれていたから。」
鬼切店長はそう言うと、仏壇の小さな引き出しを開けて、中から一枚の写真を取り出した。
少しだけ色褪せしている写真だったが、きちんと大事に直されているせいか、折れや破れなどはなく、笑顔を浮かべた一人の女性が映っている。
写真のその女性は、鬼切店長の母親である証に、目元がソックリで、笑う面影は血を分けた親子のものだった。
「これが、鬼切店長のお母さん・・。」
貴志が、ポツリと呟く。
「ハハ。まあ俺も、母の写真をいつも見ているわけじゃないからな。今日、久しぶりに見たよ。」
鬼切店長も、写真を見返しながら、懐かしむ表情をした。
「綺麗で、優しそうな人ですね。」
更に、貴志が続けて言う。
「そうか・・。ありがとう。・・で、この写真を見て、どうするんだ?」
鬼切店長が、投げかけてきた。
そこで貴志が、事の真意を告げる。
「はい。この鬼切店長のお母さんの写真から、『前世』を見てみても良いですか?」
「母の『前世』を? まあ構わないけど。」
その事に、一瞬驚いた表情をしたが、すぐに鬼切店長は了承してくれた。
「ありがとうございます。でも、こんな事しても、何の意味もないかもしれませんけど。」
手渡された鬼切店長の母親の写真を、貴志は近くの台の上に置く。
貴志が、目を軽く閉じ深呼吸をはじめた。
そして両手を胸の前のほうで合わせ、三角形を作る。
貴志は目を閉じたまま、呼吸をし続けた。
徐々に、熱いエネルギーのようなものが手先に集まっていくのを感じる。
程なくして貴志が、静かに目を開けた。
そうして静かに、写真へそっと手を置く。
すると、手先にビリビリと僅かな電流のような感覚を感じたかと思うと、不思議とその感覚は今度は腕を伝い、貴志の頭部へと流れ込んでいくのがわかった。
貴志が触れている肩部分から、まるで微量の電波のように、それは脳内へと伝わっていく。
まるでコンピューター同士を繋ぎ合わせた有線コードを伝い、データ情報を移し取るかのように、貴志の脳内には、様々な画像や場面が次々と飛び込んできた。
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