ケース🔟 前世来世

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和室に入ってきた弘子は、警戒した様子で辺りを見回すと、収納の扉を開けた。 そして中から黒い漆塗りの箱を取り出し、畳の上に置いて、縛ってある赤い紐を解き蓋を開ける。 それから、収められていた拳大《こぶしだい》程の大きさの水晶玉を手に取ると、ポケットに入れていたハンマーのような工具で、2、3度強めに叩いたのだ。 水晶玉には、見事に亀裂が入る。 すると、弘子はまた、何事もなかったかのように、水晶玉を箱の中へと戻し、黒い漆塗りの箱毎、収納へと直してしまった。 再び、こっそりと和室を出ていく弘子の姿。 ・・・・・。 ———————————————————。 ここで、ハッと現実に戻る貴志。 すぐに心配して、鬼切店長が声をかけてきた。 「大丈夫か? 貴志。」 「あ、大丈夫です。それより、鬼切店長。はっきり分かりましたよ。」 興奮気味に、貴志が告げる。 「どうした? 俺の母の『前世』が見えたのか?」 「いいえ。お母さんの『前世』は見えなかったです。という事は、おそらく『前世』はなく、最初の人生だったんじゃないかな、と思います。」 それを聞いた鬼切店長は、考え込む仕草で答えた。 「なるほどな。『前世』が見えなければ、その人生が初めてだって可能性もあるからな。」 そこで貴志が、急かした様子で別の話を告げる。 「それよりも、鬼切店長。お母さんの『前世』が見えなかった事で、代わりに過去の人生が見えました。」 鬼切店長が、疑問の表情を向けた。 「過去の人生?」 「はい。しかも、その過去の人生というのは、先日千恵の『前世』を見た時に、同時に祖母・蓮浄さんと弘子さんの様子も見えたんですが。その時の別の場面を見る事が出来たんです。」 「何? そうなのか。それで、何かあったのか?」 更に、鬼切店長が問いかけてくる。 「鬼切店長の祖母・蓮浄さんは、俺の妹・千恵を呪い殺そうと、水晶玉に”封“ をしていましたが・・。実はその呪いは、全く効果がなかった事になります。」 貴志が、冷静に説明した。 「何? 呪いの効果がなかった? どういう事なんだ?」 鬼切店長は、食い下がるように聞いてくる。 「いや、効果がなかったのは、千恵だけじゃない。実質、桜北 誠さんにも、その呪いの効果はなかったんです。あの事故は、呪いなんかじゃなく、自然と起こってしまったものなんです。」 珍しく落ち着いて話を進める貴志。 むしろ、鬼切店長の方が腑に落ちない感じでいた。 「えぇ⁈ 48年も前に、祖母の呪いで亡くなったはずの桜北 誠も、実は呪いの力じゃなく、偶然起きた事故だった、って事か⁈」 「そういう事になります。」 「何で、そんな事が言えるんだ?」 鬼切店長が、必死に尋ねる。
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