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貴志は名探偵よろしく、落ち着き払って語り続けた。
「蓮浄さんが言ってたんですよ。水晶玉に傷や亀裂が入ってしまったら、その効果は発揮されない、と。先日、鬼切店長と一緒に、初めて収納を見させてもらった時、うっかり手が滑って黒い漆塗りの箱を落としてしまいましたよね?」
「あ、ああ、覚えてる。俺が、うっかりして落としてしまったんだ。その時、水晶玉に傷をつけてしまった。思い出したぞ。」
すぐに、鬼切店長が記憶を辿って答える。
「しかし、あの水晶玉の傷は、落とした時に付いたのではなく、それよりも前に既に、亀裂が入っていたんです。48年も前に。」
「何⁈ 水晶玉のあの傷は、元々ついていた、って事なのか⁈」
鬼切店長が、真相を追求してきた。
「はい。そうなんです。あの水晶玉の傷は、48年前、蓮浄さんの娘・弘子さん、つまり鬼切店長のお母さんが、工具により意図的に付けた亀裂だったんです。」
それに答えるように、貴志が告げる。
「でも何で、そんな事を?」
貴志は再び、弘子の写真へと目を向けて答えた。
「桜北 誠への呪いをかけている、と知って、これ以上、母である蓮浄さんに、人を呪うような事はして欲しくなかったんじゃないでしょうか? それで、こっそりと弘子さんが、水晶玉の効力を無くした。」
その話を聞いて、鬼切店長も声を震わせながら、母である弘子の写真へと目を移す。
「そんな・・。まさか、そんな事が。」
鬼切店長は驚きとともに、全身の脱力を感じた。
「その場面が、ちょうど見えたんですよ。だから、蓮浄さんは少なくとも、千恵と桜北誠さんへの呪いはかけれていません。残念でしたが、桜北誠さんは、不慮の事故だったんです。」
貴志は、真実を言い放つ。
「そうか・・。そうだったのか・・。」
その事実を知り、鬼切店長は少し放心状態になって言った。
貴志が、鬼切店長に伝える。
「だから俺、祖母の蓮浄さんの事も、もう恨んだりしていませんよ。確かに呪い殺そうとしていた事は事実ですが、それにも理由があっただろうし。結果、未遂で終わったって事ですから。」
その貴志の説得力ある話に、鬼切店長も頷くしかなかった。
「まあ、・・そうだな。お前に、祖母への恨みがなければ、俺もそれが一番嬉しいよ。」
「いや、正直こんな真相が分かって良かったと思っています。俺も誰かを恨み続けたくないですから。」
貴志の顔に、笑みが浮かぶ。
それに対して、鬼切店長も笑顔で返してくれた。
「本当に、良かった。後は、これで叶恵さんが元気になってくれれば、安心なんだが。」
「ヒスイの効果に、期待ですね。」
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