6人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
貴志が言った後に、鬼切店長は収納扉に手を触れて話す。
「ヒスイの方は、傷や亀裂など入ってなかった。そして、この収納の中にきちんと直したから、間違いなく大丈夫だろう。」
「そうですね。明日、また病院に行って、母さんの様子を見てきます。」
貴志も、笑顔を浮かべて返答した。
翌日。
学校帰りに、貴志はそのまま病院へと向かう。
日々、面会に来て母・叶恵の病状を見てはいるが、今日に限っては特別に期待を膨らませていた。
例のヒスイの宝石の件で、母の容体が回復しているかもしれないからだ。
いつもの治療室に辿り着いた時、その大きなガラス窓から、叶恵のいるベッドが目につく。
ベッドサイドに誰かが面会に来ていて、すぐにそれが父・修治だと分かった。
治療室への面会は、今も家族のみ許可されていたが、中へは一人ずつという条件付きだったので、貴志は廊下で待つ事にする。
それから、ほんの5分も経つと、治療室から修治が出てきた。
「お、貴志か。久しぶりだな。」
気がついた修治が、貴志の方へと歩み寄ってくる。
貴志は、やや俯き加減で、入口近くの廊下で立っていた。
昔からそうなのだが、父・修治は何事もなかったかのように都合良くその場を凌ぐのが上手い。
本人は全く悪びれる事はなく、気まずい状況があったとしても、平気でどうでもいい世間話などを持ち掛けてくるタイプだった。
今の状況も、そうである。
「いや〜、母さん、だいぶ元気になってるから、ビックリだな。仕事が忙しくて、なかなか来れなかったが、これで一安心だな。」
頭を掻きながら、修治が話した。
「父さん。・・今回、しばらく母さんの面会に来てなかったね。そんなに、忙しかったの?」
貴志が、やや語気を強めて聞く。
それに対して、修治が答えた。
「忙しいところに、更に忙しくなって、な。研究員の一人が、奥さんが出産だからって、しばらく一緒に里に帰るからと休んでるんだ。残った人間が、たまらんぞ〜。」
その時、微かに貴志の体が震えているのが分かる。
「・・・そんな事。どうでもいいよ。」
「どうでもいいって事あるか〜。研究員が一人足らなかったら、その分誰かが代わりに補ったりして、また忙しくなるんだぞ。」
修治が、すぐに弁解した。
貴志の顔は俯いていたが、その表情は険しい色をしている。
「それが、どうでもいい事なんだよ・・。」
その事で、修治の顔も険しい顔つきへと変わった。
「貴志。お前、父親に向かって、その言葉はないだろ。」
しかし、貴志は怯《ひる》んだ様子はなく、修治の前に立ったまま言い返す。
最初のコメントを投稿しよう!