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「父さんである事は間違いないけど、それならもっと父親らしくしてくれよ。」
「何?」
修治が、問い詰めた。
「・・俺の事はいいよ。大丈夫だよ。母さんが入院している間も、ちゃんと学校に行ってるし。バイト代を貯金した分で、スーパーや商店街で弁当も買ってるし。」
貴志の言葉に、修治は急に黙り込む。
ほんの少し、二人の間に沈黙が漂った。
見上げる身長で俯いたまま、貴志が口を開く。
「・・・どこかの国で、戦争や抗争が起きてる。人生のうちで、行く事もない遠い国で・・。お互いの言い分があって、それは決して交わる事なく解決しないで、そして傷つけ合う。」
「何の話だ?」
修治が尋ねた。
貴志は、声を震わせながら続ける。
「よその国の戦争って、そんな遠い事なのかな? 自分たちには関係ない事なのかな?」
「今、俺は戦争なんかの話はしてない・・。」
強く、修治が否定した。
首を横に振って、話を続ける貴志。
「・・違う。違うよ。戦争って始まりは、一人と一人から、始まってるんじゃないのかな。そんな小さな所から始まって、徐々に大きくなって、国と国との争いになってるんじゃないかな。」
「お前、何が言いたいんだ?」
修治は、眉間に皺を寄せて聞いた。
すると貴志が、顔を上げて言う。
「父さんと、母さんの事だよ。お互い価値観が違ったり、自分の意見が正しいって事かもしれないけど。俺は二人に、もっと仲良くして欲しいんだよ。ただ、それだけなんだよ。もう少し、歩み寄る事は出来ないかな。」
修治が、窓の外を見ながら答えた。
「夫婦なんていうものはな、これぐらいの距離でちょうどイイんだよ。」
それを聞いた貴志が、少し怖い顔になって返す。
「・・何でだよ? 何で、夫婦なのに、そんな離れた距離と時間で、ちょうどイイんだよ。」
修治は、溜息をついた。
更に、貴志が続ける。
「・・千恵が亡くなって。そして今、母さんも入院して・・・。父さんは帰って来ない。・・なんで、こんな状態でちょうどイイんだよ。何で、うちの家族はこんなにも、バラバラなんだよ。」
そうして、貴志は崩れるように泣きはじめた。
その場に立ち尽くして、ただ見つめる修治。
貴志は、流れる涙を拭いながら訴えた。
「俺は・・・、俺は、願望や夢がなさすぎるのかもしれないけど。特別な物なんか要らないんだよ。父さんがいて、母さんがいて、俺がいて・・・そして、千恵もいる。あの古い家で4人で仲良く、タコ焼き屋とかやりながら、生きていくのが幸せなんだよ。それが望みなんだよ。」
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