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貴志は、できる限り足音を消して、そして速くジョオの方へと近づいていった。
50メートル程の距離にまで迫ると、後は上手に尾行をしていく。
貴志が後をつけているとも知らずに、ジョオはスタスタと歩き続けていった。
そうして辿り着いたのは、駅前のロータリーの所で、ジョオはそこに停車しているタクシーに乗り込む。
「タクシーで、移動する気だ。」
すぐに判断した貴志は、急いで自分も、他に停めてあったタクシーをつかまえた。
慌ててタクシーに乗り込んだ貴志に、運転手のおじさんが声をかけてくる。
「お客さん。どこまで?」
「あ、はい。えっと、・・あのタクシーの後をついていってもらって良いですか?」
まだ荒い息をしながら、貴志が告げた。
要望通りに、貴志の乗ったタクシーは、ジョオを乗せたタクシーを追いかけていく。
深夜である為、車通りは少なかった。
夜の町を走っていくタクシー。
「あの、すいません。前のタクシーには尾行している事を気付かれないように、離れた距離でお願いします。」
貴志の要望に、タクシー運転手は了解してくれる。
やがて町中を外れて、タクシーは山道へと入っていった。
そうして、高い木々に囲まれた山の中を、まるで吸い込まれるように走り続ける。
峠を越え、今度は山道を下って行ったかと思うと、深い森の中へ更に突き進んでいった。
それは、静まり返った闇夜の雰囲気も手伝い、二度と戻る事の出来ない空間へ導かれているかのようである。
『キャンプ場』と書いてある看板を過ぎて、5分程進むと、突然前を走っていたタクシーがハザードをあげて停車した。
貴志を乗せたタクシーも、離れた位置に停車し、様子を窺う。
「お客さん。どうします? ここで降りますか?」
運転手が、せっかちに尋ねてきたが、貴志は半分だけ耳を向けて、後は遥か前方に停車したタクシーへと目を凝らした。
そうして、間違いなくジョオがタクシーから降りた事を確認し、その動向を見守る。
ジョオはタクシーを降りた後、脇道ともいうべき車の進入出来ない細い山道を歩いていった。
その現状を把握した貴志は、
「あ、降ります。」
と伝えて運賃を支払い、急いでタクシーを降りる。
後は、先程と同じように、離れた位置でジョオの後を尾行するだけだった。
それぞれのタクシーは、帰っていく。
まるで足元の見えない暗がりの山中で、貴志は微かに見えるジョオをつけていった。
それから、200メートル程尾行したところで、貴志は目前に、白壁の大きな建物を発見する。
その建物は闇夜の中、隠れるように存在し、壁は汚れて剥がれ、蔦《つた》の葉が絡みついて生い茂り、廃墟と化した姿だった。
ジョオは、その中へと確かに入っていく。
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