ケース🔟 前世来世

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黒の長い髪を後ろで一つに結んだ、青い瞳のジョオが、怪しく微笑んだかと思うと、いきなり見えない速さの前蹴りが貴志の前胸部に打ちつけられた。 「ゔぐっ!」 貴志は、5、6メートル程飛んで、地面に倒れ込む。 呼吸が出来ない程の激痛が、胸部に広がり、今度は胸を押さえたまま、呻きまわった。 「オマエが、あのタコ焼きの店から、後を尾けてきているのは分かっていたヨ。その予定で、あそこに行ったのだからネ。」 そう言うジョオの言葉を聞きながら、貴志は何とか呼吸を整えながら、痛みの軽減を待つ。 という事は、これは罠だったのだ。 そこへジョオが、更に告げる。 「ワタシたちは、次のターゲットを、オマエにしたのだ。」 何という事だ。 貴志は、要らぬ勇敢さを絞り出して、四姉妹の居所を突き止めようと尾行してきたつもりだったが、これは全て計画的な罠だったのだ。 貴志は両膝をついたまま、まだ痛む胸部を押さえながら、この状況を理解し、先程とは比《ひ》にならない程の恐怖で震えている。 この瞬間に、頭の中で色々と考え、気持ちを落ち着かせようと思った。 貴志を捕まえる目的で、ここに呼び寄せたが、すぐに殺す事はないだろう。 おそらく・・。 せめて貴志を人質として、警察と色々交渉するつもりのはずだ。 多分・・。 そんな微かな期待を、思い浮かべてみる。 「お、お、俺をどうするつもり?」 貴志の口から、やっと言葉が出た。 鼻筋の通った美しいジョオの顔が、嘲笑うようにして言う。 「もちろん、殺ス。・・すぐに。お前の死体を、この山に埋めれば、誰も気が付かないだろう。」 「えっ⁈ そ、そんな!」 戸惑いを隠せない貴志。 その直後、ジョオの華麗な回し蹴りが、信じられないぐらいギュンと伸びてきて、貴志の顔面を直撃した。 後方へ飛びながら、転がり倒れ込む貴志。 叫びながら貴志は、顔を両手で押さえて、もがき苦しんだ。 呼吸も乱れず、冷たい視線を貴志に向けて、ジョオが言葉を吐き捨てる。 「フン。鼻が折れたかな。」 膝をついたまま、顔を上げた貴志の鼻からは、大量の鼻血が流れ出ていた。 「うぐぅっ!」 更に、一歩二歩と近づいてくるジョオ。 「お前。背が高いだけで、全然弱いなぁ。」 貴志は膝をついたまま、立つ事すら出来ずに困惑していた。 これが、殺される恐怖というものだ。 このまま、元気になった母さんにも会えずに、俺は死ぬのか・・。 「じゃあ、フィニッシュかな。」 そう言って、ジョオは自分の拳《こぶし》の関節をポキポキと鳴らした。 ジョオが、貴志に近づいてくる。
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