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黒の長い髪を後ろで一つに結んだ、青い瞳のジョオが、怪しく微笑んだかと思うと、いきなり見えない速さの前蹴りが貴志の前胸部に打ちつけられた。
「ゔぐっ!」
貴志は、5、6メートル程飛んで、地面に倒れ込む。
呼吸が出来ない程の激痛が、胸部に広がり、今度は胸を押さえたまま、呻きまわった。
「オマエが、あのタコ焼きの店から、後を尾けてきているのは分かっていたヨ。その予定で、あそこに行ったのだからネ。」
そう言うジョオの言葉を聞きながら、貴志は何とか呼吸を整えながら、痛みの軽減を待つ。
という事は、これは罠だったのだ。
そこへジョオが、更に告げる。
「ワタシたちは、次のターゲットを、オマエにしたのだ。」
何という事だ。
貴志は、要らぬ勇敢さを絞り出して、四姉妹の居所を突き止めようと尾行してきたつもりだったが、これは全て計画的な罠だったのだ。
貴志は両膝をついたまま、まだ痛む胸部を押さえながら、この状況を理解し、先程とは比《ひ》にならない程の恐怖で震えている。
この瞬間に、頭の中で色々と考え、気持ちを落ち着かせようと思った。
貴志を捕まえる目的で、ここに呼び寄せたが、すぐに殺す事はないだろう。
おそらく・・。
せめて貴志を人質として、警察と色々交渉するつもりのはずだ。
多分・・。
そんな微かな期待を、思い浮かべてみる。
「お、お、俺をどうするつもり?」
貴志の口から、やっと言葉が出た。
鼻筋の通った美しいジョオの顔が、嘲笑うようにして言う。
「もちろん、殺ス。・・すぐに。お前の死体を、この山に埋めれば、誰も気が付かないだろう。」
「えっ⁈ そ、そんな!」
戸惑いを隠せない貴志。
その直後、ジョオの華麗な回し蹴りが、信じられないぐらいギュンと伸びてきて、貴志の顔面を直撃した。
後方へ飛びながら、転がり倒れ込む貴志。
叫びながら貴志は、顔を両手で押さえて、もがき苦しんだ。
呼吸も乱れず、冷たい視線を貴志に向けて、ジョオが言葉を吐き捨てる。
「フン。鼻が折れたかな。」
膝をついたまま、顔を上げた貴志の鼻からは、大量の鼻血が流れ出ていた。
「うぐぅっ!」
更に、一歩二歩と近づいてくるジョオ。
「お前。背が高いだけで、全然弱いなぁ。」
貴志は膝をついたまま、立つ事すら出来ずに困惑していた。
これが、殺される恐怖というものだ。
このまま、元気になった母さんにも会えずに、俺は死ぬのか・・。
「じゃあ、フィニッシュかな。」
そう言って、ジョオは自分の拳《こぶし》の関節をポキポキと鳴らした。
ジョオが、貴志に近づいてくる。
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