ケース🔟 前世来世

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「逃げてもムダだヨ。すぐ捕まえて、殺すヨ。」 二人の後を追いかけてくるジョオが言った。 そして、腰元に隠していたサバイバルナイフを取り出して呟く。 「あんまり、遊びすぎて長引かせても悪いから、早くトドメを刺してやろうカナ。」 建物の奥へと逃げ去っていく二人の後を、ツカツカと足早に追いかけていくジョオの姿。 そんな時、この建物のある表通りの峠道に、一台の車両スープラがやってきた。 それは道路脇に停車すると、中から二人を人物が降りてくる。 刑事の江戸川と、珠里だ。 「本当に、こんな所なのか?」 真っ暗な辺りを見回しながら、江戸川が言う。 「間違いないわ。・・こっちよ。」 それに対して、珠里が答えながら、細い脇道を進んでいった。 程なくして、廃墟と化した建物の中庭らしき所に、江戸川と珠里がいる。 キョロキョロと周囲を見渡す江戸川。 珠里は、壁側の隅の草原に落ちている壊れた携帯電話を見つけて拾った。 「・・ここで、何かあったわね。」 それを見て、江戸川が近寄ってくる。 「という事はやっぱり、貴志のヤツはここに来たって事なのか。」 壊れた携帯電話を扱いながら、珠里が言った。 「こんな事態が起こるかもしれないと予測して、ちょっと前に貴志くんに説明して、持っている携帯電話にGPSをダウンロードしていたのよ。」 「そうか。相変わらず、先読みの準備が良いね〜。」 江戸川が、感心した顔で話す。 それに対して、珠里は緊迫した表情で告げた。 「そんな、のんきな事を言ってる場合じゃないわ。危険な予感がする。早く、見つけないと。」 そうして、ふと目線の先に、ドアがあるのを見つける。 そこから、建物の中へと潜入する二人の刑事。 荒廃した建物の中は、やはり壁の汚れや亀裂があったり、床にはガラスの破片や物が散乱していた。 長く伸びた廊下を見ながら、江戸川と珠里は進んでいく。 お互い目で合図をし合った二人は、もしもの為に拳銃を構えていた。 不気味な廃墟と夜の闇が、まるで飲み込むかのように、静かに佇んでいる。 歩いていた江戸川が思わず、蜘蛛の巣に顔を突っ込んでしまい、必死に取り払っていた。 「くっ・・くっそ。この崩れかけた建物は、何なんだ?」 あくまでも冷静な珠里は、周囲に警戒しながら話す。 「ここは元々、病院だったみたいね。それが廃墟のまま、ずっと残されていたのよ。」 「ここが、アイツらのアジトなのか?」 江戸川が、不機嫌そうな顔で言った。 人里離れた山奥に、ポツンと隠れるように今も残されたこの建物は、夜中の時間帯とはいえ、どこかひんやりと冷たい空気が流れているように涼しさを感じる。
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