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その頃。
どこかの廊下を歩く、ジョオの姿があった。
真っ暗な中を、ニヤニヤと不気味に笑いながら歩いていく。
片手にはサバイバルナイフを持ち、それを時折、刃の背の部分で廊下の手摺《てす》りを叩きながら歩いているのだ。
・・・カーンッ。
カーンッ・・・・。
カーッ・・・。
この音は、おそらく建物中に響き渡っている。
・・カーンッ。
・・カーンッ。
・・カーンッ。
そして、・・突然この物音が止んだ。
辺りは急に、静まり返る。
「あっ・・止まった。」
建物内のそれぞれの場所にいる者たちが、共通してこの音を聞いていた。
2階の棟を歩いていく江戸川。
3階の一室へと入った珠里。
安置室に身を潜める、貴志と昌也。
真夜中の山奥にある廃墟。
世間は、深い眠りの時間に違いない。
静寂の建物内は、緊張の時間が流れていった。
真っ暗な一室をライトで照らしてみると、無造作に置かれた錆び付いたベッドが見える。
珠里は浅く呼吸しながら、ゆっくりと周囲を見渡した。
ここは、おそらく病室だったようだ。
その頃、2階の棟を散策する江戸川。
『手術室』と書かれている部屋がある。
江戸川は、その扉を開けて、コッソリと中を覗き込んだ。
暗闇で静まり返っている。
その刹那、言い知れぬ気配と殺気のようなものを感じた江戸川は、咄嗟《とっさ》に体をのけぞらせた。
鋭い刃物の先が、空《くう》を切る。
素早く体勢を整えた江戸川は、その方向へライトを照らしてみた。
そこには、長い黒髪でスレンダーな体型のジョオが立っている。
「お前か。」
江戸川が、身構えながら言い放った。
サバイバルナイフを手に持ったジョオが、ニヤリと笑う。
「あの時の、小さい刑事か。また私から、痛めつけられたいのか?」
元手術室の部屋で、二人は対峙した状態で向かい合った。
ライトで照らしたまま、江戸川が言う。
「あの時は、俺が油断しただけだ。今度は、勝てると思うなよ。」
江戸川よりも背が高く、手足の長いジョオが、ゆっくりと近付いてきた。
その間も江戸川の持っているライトの光が、執拗にジョオの顔を照らし、その眩しさを嫌がるように手で遮っている。
ライトの光のせいで、時々サバイバルナイフの刃が、キラリと反射した。
一瞬の隙をついて、ジョオは手に持ったサバイバルナイフを突き出してくる。
江戸川は、そのタイミングに合わせるかのように、手に持っていた小型ライトを一瞬早く投げつけた。
その小型ライトは江戸川の思惑通り、ジョオの顔へと激突する。
「ゔぐっ!」
いきなりの衝撃で、思わず自分の顔を押さえるジョオ。
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