ケース🔟 前世来世

55/80
前へ
/80ページ
次へ
その頃。 どこかの廊下を歩く、ジョオの姿があった。 真っ暗な中を、ニヤニヤと不気味に笑いながら歩いていく。 片手にはサバイバルナイフを持ち、それを時折、刃の背の部分で廊下の手摺《てす》りを叩きながら歩いているのだ。 ・・・カーンッ。 カーンッ・・・・。 カーッ・・・。 この音は、おそらく建物中に響き渡っている。 ・・カーンッ。 ・・カーンッ。 ・・カーンッ。 そして、・・突然この物音が止んだ。 辺りは急に、静まり返る。 「あっ・・止まった。」 建物内のそれぞれの場所にいる者たちが、共通してこの音を聞いていた。 2階の棟を歩いていく江戸川。 3階の一室へと入った珠里。 安置室に身を潜める、貴志と昌也。 真夜中の山奥にある廃墟。 世間は、深い眠りの時間に違いない。 静寂の建物内は、緊張の時間が流れていった。 真っ暗な一室をライトで照らしてみると、無造作に置かれた錆び付いたベッドが見える。 珠里は浅く呼吸しながら、ゆっくりと周囲を見渡した。 ここは、おそらく病室だったようだ。 その頃、2階の棟を散策する江戸川。 『手術室』と書かれている部屋がある。 江戸川は、その扉を開けて、コッソリと中を覗き込んだ。 暗闇で静まり返っている。 その刹那、言い知れぬ気配と殺気のようなものを感じた江戸川は、咄嗟《とっさ》に体をのけぞらせた。 鋭い刃物の先が、空《くう》を切る。 素早く体勢を整えた江戸川は、その方向へライトを照らしてみた。 そこには、長い黒髪でスレンダーな体型のジョオが立っている。 「お前か。」 江戸川が、身構えながら言い放った。 サバイバルナイフを手に持ったジョオが、ニヤリと笑う。 「あの時の、小さい刑事か。また私から、痛めつけられたいのか?」 元手術室の部屋で、二人は対峙した状態で向かい合った。 ライトで照らしたまま、江戸川が言う。 「あの時は、俺が油断しただけだ。今度は、勝てると思うなよ。」 江戸川よりも背が高く、手足の長いジョオが、ゆっくりと近付いてきた。 その間も江戸川の持っているライトの光が、執拗にジョオの顔を照らし、その眩しさを嫌がるように手で遮っている。 ライトの光のせいで、時々サバイバルナイフの刃が、キラリと反射した。 一瞬の隙をついて、ジョオは手に持ったサバイバルナイフを突き出してくる。 江戸川は、そのタイミングに合わせるかのように、手に持っていた小型ライトを一瞬早く投げつけた。 その小型ライトは江戸川の思惑通り、ジョオの顔へと激突する。 「ゔぐっ!」 いきなりの衝撃で、思わず自分の顔を押さえるジョオ。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加